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Desert Oasis Vampire

「ママが、いい子にしてないと捨てちゃうわよ。って……。メリーはあまりいい子じゃないの。だから、いい子にならなくちゃ……」

グレンの場合は本当に捨てられてしまったが、大概の場合は脅しだ。

「メリー。ママは、メリーを捨てたりしない」

これはかつて、フォードがグレンに言って聞かせた事だった。

「ママはメリーが嫌いで怒ってるんじゃないんだよ。本当にそうする気は無いけど、ママの言う事をきかせる為にメリーに恐い事を言って驚かしただけだ」
「ほんとに?」
「本当。子供を嫌いな親は、居ないからね」

グレンは、フォードが言った事を信じなかった。
信じられなかったけれど、メリーはそうではなかった。

ルイがもこもことメリーに寄り添い、メリーに笑顔を戻してくれた。

先に遊び疲れたのはルイの方で、サークルに戻りたがったから入れてやった。
しかしメリーはまだ遊び足りないらしく、グレンの長いジャケットの裾を引っ張った。

「お兄ちゃん、あそぼう!」

メリーは部屋の外に行きたがっているが、グレンは無闇に出歩けないので困ってしまった。

「どうしたの?お兄ちゃん。行こう?」
「いや……。メリー、行けないんだ」
「どうしてぇ?」

何て説明するべきか。
迷って、ヴァンパイアとははっきり言わずにわかってもらうことにした。

「一人で勝手に、外に出ていってはいけないんだ」
「なんで?」
「知らない内に、悪い事をするかもしれないから……。お兄ちゃんが家の中を歩き回ったら、皆を恐がらせてしまうんだ。だから……。悪い子にならないように、ここから勝手に出ちゃいけないんだ」

メリーはよく考えてから、にっこりと笑ってみせた。

「わかった!わるいコトをしないように、みはってればいいんだよ!」
「え……?」
「お兄ちゃんはメリーがいい子にしてるか見てて?メリーはお兄ちゃんがいい子にしてるか見てるから!ね?いいでしょ!?あそべるでしょ!?」

一生懸命考えてお願いしてるのだから応えてやりたいが、悪魔の影響を受けたばかりでまだ体調が万全ではないし、不安だった。
けれど、何かあったらフォードを呼ぼう。と思い、決心して頷いた。


「おうちを探検しよー!」
「こら、メリー。走っちゃいけないよ」

早速走り出したメリーに注意し、グレンはメリーの後からゆっくりついていった。

立ち入り禁止区域の廊下から先にグレンが出ていくと、外出の時と違って何も知らされていないため、使用人達は声を上げて驚いた。
グレンの外出時には姿を隠して普段絶対にお目にかかれない者達は特に、不意に現れた主人にぼーっと見惚れたり、同僚と興奮気味に囁き合っている。


「メリー、頼む。走らないで」

病み上がりの体では、早足でついていくのも疲れる。
グレンは立ち止まり、一つ、大きく息を吐き出した。

「だいじょうぶ?」

メリーはちょこちょこと寄ってきて、心配そうに見上げた。

「もう少し、ゆっくり歩いてくれるか」
「うん。わかった」

何度もチラチラとグレンの顔を見上げながら、メリーはグレンの一歩先を歩いた。

あちらこちらの部屋を覗いている内にグレンの噂はあっという間に広まって、ミセスディナ達がすぐに駆けつけた。

「グレン様…!」
「まぁ、何て事!」
「この子は何です!?」

他の使用人達も沢山集まってきて大きな騒ぎになってしまった。
メリーの誘いに乗ったのは自分だし、悪いのは自分だと説明しようとしたが、集まった使用人の中から一人が出てきて頭を下げた。

「申し訳ありません!私の…!私の姪です!」
「これはどういう事かしら!グレン様は倒れたばかりなのよ!?」
「なのにグレン様を連れ回すなんて…!」
「申し訳ありません!申し訳ありません!ちゃんと寮に居るように言ったんですけど…!」

ミセスディナはハンナとミカルをいさめ、落ち着かせる。
使用人達の様子を見たメリーはグレンを見上げ、コソッと「病気なの?」と聞いた。

「メリー!!」

叔母に叱られ、メリーはびくりと肩を揺らした。

「この子は…!何て悪い子なの!部屋に居なさいって言ったでしょ!」
「ごめんなさい……」
「グレン様はご病気なのよ!?何て事をしてくれたの、この子は!」

メリーは泣きそうになりながら、何度もごめんなさいを繰り返した。

「グレン様、どうぞお部屋へ」
「わざわざ子供の我儘に付き合ってくださって……」

グレンはメリーを置いて、このまま部屋へ戻れなかった。

「グレン様……?」

メリーは悪い子なんかじゃないと伝えたくて。

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あきゅろす。
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