Desert Oasis Vampire
第十二話 メリーとあそぼう!
森の中で何があったか、グレンは具体的に話さなかったが、悪魔と会ったのだろうと予想は出来た。
あれから寝てばかりいるようになったグレンは、今日もお茶の途中でソファーに横になって眠ってしまった。
ローザが訪ねてきた時もだるそうにしていて、体力が落ちて疲れやすくなったのかと心配されていた。
邪悪な力の影響を受けた時は、調子が戻るまでよく眠るようになる。
特に正気を失った時は時間がかかる傾向があり、それでいくと今回は大したことないはずなのだが、何故か長引いているからフォードも気になっていた。
フォードはサークルから出たがっていたルイを出してやると、眠るグレンの傍らに座らせた。
グレンが眠ってばかりであまり構ってくれないから寂しいだろうと思ったのと、もう一つ。
「グレン様のそばに居てあげてください」
子供の笑い声がした。
何処の子だろう?と思っても、窓は外から板で打ち付けられていて見る事は出来なかった。
最初の頃は話し掛けたいと思っていたけれど、その内そんな気も無くなった。
『ここだぜ。悪魔に呪われてる子供の部屋って』
『エクソシストが来てたって言ってたもんなぁ』
『でも祓えなかったんだろ?まだ不気味な声がするらしいぜ』
彼らは、壁を蹴ってケラケラと笑った。
“不気味な声”とやらを真似してみせながら、暴言を吐いて。
子供の笑い声がする。
意識が浮上してもまだ、きゃあきゃあと無邪気な少女の声がしている。
目を開けると、涙で視界がうっすら滲んでいた。
嫌な夢を見たせいだ。
だらりと体を起こし、目をこすってから室内をよく見回すと、テーブルの向こうに小さな影が丸まっていた。
それは金髪の幼い少女で、ぼーっと少女を眺めながら「何で子供がここに居るんだろう?」と考える。
うずくまって何をしているのかと思えば、ルイを触って遊んでいるようだ。
「うさちゃーん」
しかし甲高い子供の声に慣れていないせいで、ルイはびくびくと恐がって跳ねて逃げてしまう。
「あっ、まってぇ!」
逃げるほどに追われるルイがかわいそうになって、ふっと苦笑する。
急に動いて少女の方を恐がらせないように、ゆっくり静かに立ち上がる。
そーっと背後から近付いて、しぃっ。と人差し指を立てる。
「大きな声を出すな。ルイが驚いてる」
そっと、気をつけて言ったつもりが、少女はびっくりして振り返った。
大きな目を更にまんまるくして、見上げたまま固まっている。
やはり恐がらせてしまったか、と思った瞬間。
少女の顔にぱあっと明るい笑みが浮かび、瞳はキラキラと輝きだした。
「お兄ちゃんだぁれ?」
好意的な感情をこんな真っ直ぐに向けられた事に驚き、グレンは戸惑ってしまった。
だからつい、抱いた疑問をそのまま口にしてしまった。
「ヴァンパイアが居るから、ここへは近付くなと言われなかったのか?」
そんなつもりは一切なかったのだが、言った後で言い方が少し意地悪かっただろうか?と気になった。
それも恐らく幼い少女だからではなく、少女が使用人の服を着ているからかもしれない。
ヴァンパイアと聞いても少女は不思議そうに首を傾げただけで、グレンはひとまず説明を諦めた。
恐がらせるのもかわいそうだし、万が一の時は部屋から追い出せば済むと考えた。
「君は、ちっちゃなメイドさんかな?」
以前も何も知らない無邪気な使用人が来た事があったな。と思い出して、グレンは可笑しくなった。
そのお陰で、冷たい人形の様な表情がかすかにだがふわりと緩んだ。
「メリー!」
「………………?」
「メリーっていうの!」
あどけない少女。
やはり、偽りの無い真っ直ぐな人間は眩しい。
「メリー」
メリーは、キラキラした目でグレンを見つめた。
「彼は、ルイっていうんだ。おいで、ルイ」
恐がって離れてじっとしていたルイを呼ぶと、ぴょんぴょんと跳ねて近付いてきた。
「ルイ?おいで」
「優しく、そっと撫でてやれば咬まない。ルイは時々人間みたいだから。いい子にしてれば、ちゃんとわかってるんだ」
嬉しそうにしていたメリーだが、何故か急にしゅんと沈んでしまった。
「メリー?」
覗き込むと、メリーは目に涙を滲ませてぐっと泣くのを堪えていた。
「メリーはいい子じゃないの」
その言葉は、グレンの胸にも刺さった。
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