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Desert Oasis Vampire

外は人気が無く静かで、風に揺らぐ緑の音がするだけだった。
以前は、日が暮れてからの方が心地よくて好きだった。
人も居ないし、日差しを気にしなくてもいい。
けれど今は、闇に紛れて悪魔がすぐそこまで迫ってきている気がして、恐ろしく感じる。

馬鹿だってわかってる。
けどこれは意地だ。
子供じみた。無謀な。浅はかな。

そして何より、殺されるかもしれないという自覚が薄かったのだろう。
能力的にかタイミング的にかはわからないが、とにかく今すぐには“出来ない”事情があるから殺されないのだと甘くみていた。
だから深く考えもせず、森へ踏み込んでしまった。


少女の笑い声が不気味に響いている。
遠く、近く。
あちらこちらに移動する声の在処を探して顔を動かしても、あの少女の姿は確認出来ない。

遠ざかる声に誘われるように森の奥へと進む。
背中で逃げ道を意識しながら、目をこらした。

「童話を知ってるか?」

すぐそばで聞こえた気がして顔を動かすが、やはり姿は見えなかった。

「何処に居る!」

草木が揺れる音に紛れて少女のくすくす笑いがした。

「森に入ると危険だって、童話で読まなかったか?」

右かと思えば左で、左かと思えば右で繁みががさがさと揺れ、声も同じく移動した。

「ああ。童話を読んだ事が無かったか?寝る前に読み聞かせてくれるパパやママはどうした?」

その皮肉に一瞬カッときたが、すぐに冷静になった。
まるで過去を知っているような口ぶりだ。

「聞かせてやろうか?森には、腹をへらした獣がうろついてるんだ。無知なお姫様がうっかり迷い込むと、すぐに獣に食べられるぞ」
「誰がお姫様だ!」
「童話だろう」

揶揄にまんまと苛立ってしまったが、冷静な部分では少女が自らを危険なものだとにおわせている事も感じていた。

「森には魔女も住んでるんだ。何も出来ないクセに自分の力を過信してると、あっさり捕まって殺されるぞ」

図星だ。
罠だとわかっていて、何も出来ないとわかっていて森に入った。
童話になぞらえた皮肉が痛い。

「お前は、何者だ…!」
「ここは動きづらいところだな」
「は……?」

質問を無視したと思ったら、そうじゃなかった。
クロという悪魔から聞いた話を思い出す。
ここら辺一帯は悪魔にとって大変居づらい場所だ、と。

「まったく、鬱陶しくてかなわないよ。“待て”状態でただでさえイラついてるってのにさ。遊んでやるのにも手間がかかって」

こっちは苦しい思いをして迷惑してるってのに、少女は遊んでやってる感覚に過ぎない。
そしてやはり、まだ殺される時期ではないようだ。

「特にここは厄介だよ。近づくのもこの森がギリギリでね」

安堵したのも束の間。
俺は、少女が足を踏み入れられる範囲までわざわざ来てしまった。
背筋に冷たいものがはしる。
フォードが森に入るなと言ったのも、森が危険だとわかっていたからだろうか。

「悪魔は……、何故人を呪う……?」

後退りながら、姿の見えない少女に問う。

「そんなの簡単だ」

愉快だと言わんばかりに、声が楽しげに踊っていた。

「そいつを殺してやろうと思ったからだよ」

耳元で放たれたセリフに恐怖し、目眩に襲われながら身を翻した。


フォードがミセスディナ達とグレンの私室にやって来ると、主人の姿は見当たらず、ルイがサークルの中でばたばたと暴れていた。

「グレン様?」

寝室にも居ない。

「グレン様」

浴室にも居ない。

まさか一人で外に……?
フォードとミセスディナ達は同じ事を考えて顔を見合わせた。
その時、森から飛び出してきた人影に気付いて皆身構えた。
が、その姿が照らし出されるとハッと息を呑んだ。

「グレン様!!」

森から出てきた事にも驚いたが、グレンの取り乱した様子にも驚いた。
グレンは何かに追われる様に焦って部屋に駆け込むと、両手で乱暴にガラス戸を閉めた。
息を乱し、その顔に恐怖が浮かんでいるのを見て、使用人達は恐ろしくなった。

グレンは一体、森の中で何を見てきたのか。

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