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Desert Oasis Vampire
第六話 体内の闇
暗闇の中に、一人きりで座り込んで居る。
手元に目をやると、左手の中に小さな光があった。
握り潰してしまえそうな、酷く頼り無い光の玉。

もう……要らない。

大事なものだとわかるのに、俺はもうこれを手放したいと思っている。
この責任から解放されたい。
その時、傍らに立つ誰かの足が目に入った。
誰だろうと考える間も無く横から伸ばされた手は、握り締める光を手から奪おうとして、空を掻いた。

手は、すべてを終わらせる事が出来る。
光をこの手から取り返せば、終わる。
すべてから許される。

それでも、まだ――。


目覚めると、不思議な感情に支配されていた。
単なる夢に過ぎないのに、それがまるで実際に経験した事の様にリアルで。
物悲しい。

座り込んでいたあの暗闇が、今置かれている状況そのままだと思えた。
自分は今一人きりで、何も無い暗闇に座り込んで居るのだ。

絶望は疾うに諦めへと変わっていた。
諦めすらも曖昧に滲んで、いっそ住み慣れた家にさえなった。

あの光はもしかしたら……いや、きっと。
自分の命の火だったのだろう。
もう手放してしまいたいと思ったのに。
その機会もあったのに。
自分は、それでもまだ諦めたくはないと決めた。
あの手にそう答えた。

何故なのか。
思い返してもわからない。
まだ生きたいと願った自分が。


「お早うございます。ご気分はいかがですか?」

つ、と目を動かすと視界に入る執事。

「変な夢を見た」

言いながら、体が重くて起き上がるのが辛いと思う。
フォードは言わずとも悟り、辛ければまだ寝ていて下さいと微苦笑を浮かべた。

暗闇に居たあの存在が味方な気がしたから、フォードかもしれないとよぎった。
けれど、光を奪おうとするだろうか?
フォードなら、例え俺が望んだとしてもそうはしないと思う。
なら、あれは誰なのか。


二度寝をして起きると比較的すっきりはしていたけれど、やはり体のだるさは残っていた。
一応何とか持ち堪えたとはいえ、また気絶しそうになったからなのだろう。

食事もあまり喉を通らず、テラスに出る気にもなれないで、ルイを抱えソファーで丸くなる。
今日は特に客も無く、運良くか悪くか考える時間は無駄にあった。


仕方ない。
家族から遠ざけられ、家族の手で監禁されたのだから。
人を嫌うのも仕方ない。
フォードはかつて、そう言って俺を許してくれた。

これから人間と向き合っていく気持ちがあるとローザに答えたのには嘘は無い筈だった。
なのに俺は気持ちの上で、誰も彼もを突然、目が覚めた様に突き放して拒絶したのだ。


「ルイ」

動物はいい。
余計な事を考えて身構えなくていいし、楽な気持ちで素直にそこに居られる。

膝の上にちょこんと乗るルイは、首を傾げてじっと見上げた。
服を引っ掻くから抱っこしてほしいのかと思ってそうすれば、そこからジャンプして肩を踏み台に逃げ出した。
全速力で懸命に走っているのだろうが、その姿はモコモコと可愛らしい。

「外に出たいのか?」

ガラスで行き止まったルイの視線は外にある。
晴れて日差しも強そうだから、今日は言われなくてもきちんと手袋をしていこう。

「散歩に行こうか?ルイ」

外に出る気なんて無かったのに、ルイに連れ出されてみるのも悪くないなんて思えた。


鬱陶しいからと、傘を持たずに行ってしまいたいところだが、さすがに体の調子が悪くなった後だから気にしないわけにはいかない。
大きくて重いから腕が疲れるし面倒でならないのだが仕方ない。

テラスへ出ると傘を差していても眩しくて、それだけで体力が奪われていく気がする。
引き返されたらたまらないとでも思っているのか、待ちきれない様子でリードを引っ張って急かすルイ。

「わかったよ。行くから」

テラス前の芝生でぴょんぴょんと跳ねるのが嬉しそうで、こちらまで自然と頬が緩む。
しかしやはり傘の重みで腕がだるくなってきて、木陰に入り一旦腕を下ろす。

目の前に広がる森は、昼間だというのに薄暗く不気味だ。
地形を考えると森と言うより正しくは山なのだが。

あんな変な夢を見たからかもしれない。
奥に行くにつれ闇が濃くなるのを見たら、心臓がぎゅうっと震えて縮こまる様な息苦しさを覚えた。
強引に不快感を無視して傘を差したその瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

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あきゅろす。
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