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Desert Oasis Vampire

人を見る様になってから気が付いたのは、使用人達は皆汗をかいて仕事をしてくれているという事だ。
それはすごく感謝すべき事だと思う。

テラスに向かうソファーに座り、黒いふわふわを抱き上げる。
触らせてと言うローザはきゃあきゃあ喜んでいる。

フォードがお茶のワゴンを押して来た。
かと思えば、後を追って来た使用人が告げたのは、ベテラン庭師の一人がぎっくり腰で動けないという事。

「代わりにアイラが手伝ったらどうだ?」
「それはいいですねぇ」

アイラへ冗談で言ったのに、意外にもフォードが真面目なトーンだからこっちが驚かされた。


梯子の上で庭木を切らされている彼が悪魔だと知らない庭師は典型的な頑固親父という印象で、他の庭師達と同様に車椅子からどやしている。
その様が小気味いいとばかりに、上機嫌なローザは便乗して口を出す。

日除けの黒い傘を手に、そんな光景を眺める自分が不思議に思えた。

作業をしながらもこちらが気になっているのは、然り気無い振りで寄越される庭師達の視線で十分にわかる。
使用人達もそれは同じようで、それだけ今の自分は普段からは考えられない事をしているのだと自覚せざるを得ない。

正直、戸惑っていた。
人間が徐々に視界に入り始め、それに強い拒絶反応を見せなくなってきている自分に。

人間はもっと恐れるべきものだ。
この教訓は事実に違いないと、心の深いところから当たり前に信じきっていた。
それを変えようとしているのがローザで。恐らくアイラで。
そしてもしかしたらフォードで。
正しいのかもわからずに、この流れに抵抗を見せない自分。


思考を遮ったのはアイラの焦った絶叫と、冷水。

「わぁー―!……グレン…………ごぉおおめぇんっ!!」

狼狽する悪魔が握るホースから流れ出るそのじょろじょろという音が大きく聞こえる。
目を合わさないよう顔を背けるのも忘れ、一同蒼白で立ち尽くす中、ローザの怒声がアイラにぶつけられる。

「アンタ!グレンが風邪引いたらどーしてくれんのよ!」
「ごめんごめん!ごめんよグレンー!うるせぇコイツにかけてやろうと思ったら…!」
「何ですって!」

そりゃあ驚きはしたが、別に怒りは無い。
それよりも周りが気にし過ぎて放心しているこの状況の方が堪えられない。

「……いい。気にするな」

と言ってもさして効果は無いようだが。
目にかかる前髪が貼り付くのが鬱陶しくてかきあげる。
心配して大袈裟に騒ぐローザと、ひたすら頭を下げるアイラ。

「部屋に戻る」

こんな時、気にするな以外に何て言えばいいっていうんだ。
行きかけて足を止める。
目を合わせる訳にもいかず、車椅子の庭師の分厚い手を見ながら言う。

「邪魔をした」

言葉のままだ。
思い付きで何も考えず出てきてしまったから、作業を止めてしまったのだ。

「続けてくれ」


屋敷に一歩入ったら入ったで、今度はこちらでも騒がせる。
大変…!と口を押さえる者が居たり、パタパタと急に動き出す。

前髪をかきあげて視界が開けてしまったばっかりに、うっかり目を合わせてしまいそうになる。
そんな時に、素早く駆けつけた使用人が恐る恐るといった調子で口を開く。

「傘をお預かりしますっ」

出した手もおずおずと。
タオルを差し出す別な声は硬い。

濡れたシャツが気持ち悪くてごく自然に襟を寛げてしまってからマズイと気付く。
ハッとして、つい傘を持つ使用人と目を合わせてしまった。
咄嗟にそらしたものの、明らかな動揺を繕いきれない。
傷の残る肌を焦って隠す指が震えそうになる。

固まる使用人の手から奪う様にタオルを取り、足早に自室へ急いだ。

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