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Desert Oasis Vampire

名前を聞き納得したかに見えた。

「さっきの、わかるのか?」
「ご両親は名の知れた資産家でらっしゃいます。アイリス様はそのご令嬢です」

返事をする代わりにアイラがなるほどー、と相槌を打った。

「金持ちの娘に惚れられたか」
「中学で噂話でも耳になさったのでしょう。または街で見掛けた、とか」
「中学生かよ!」

いい加減腹が立った。
変な物は送られてくるし、今度は中学生が常識を越えた量を。

「もういい!」

テーブルを叩いて立ち上がった勢いでカップが音を立てる。

「グレン様っ、どちらに!?」
「見に行く!」
「おっ、いーねぇ」
「煽らないで下さい!お待ち下さいグレン様!」

外出の時以外は部屋から滅多に出ないし、フォードも体の事を考えて部屋に居ろと言うからそれに甘えている。
いつ何処で気を失うかわからないからだそうだ。
出たとしても使用人達が敷地内の寮へ帰り、屋敷に誰も居なくなってからを選ぶ。

騒がしい屋敷内を行き交う使用人達は目を見開き、驚きを隠せないでいる。
そんな中、ホールを埋め尽くす物の数々が嫌でも目に飛び込んできた。

「何だ、これは」

家具や、絵画をはじめとした美術品の数々。
そして観葉植物や苗木、花。
そうかと思えばワインやパンなど食料品も桁違いの量で一気に送られてきている。

「グレンが街でパン屋に寄ったからじゃないのか?コレ」
「そんな事で……?」
「赤ワイン、トマトジュースに、アセロラジュースゥ?みーんな赤いな、ヴァンパイア殿?」

アイラは皮肉めいた苛立つ笑みを浮かべた。

「呆れた……。赤い飲み物を血の代わりにしろとでも!?馬鹿馬鹿しい!」

度を越えて、嫌がらせにすら思えてくる。
フォードは置き場に困った品物を各部屋へさばく為に使用人達へ忙しく指示を飛ばす。

「グレーン!血の滴る生肉もあるぞー!」
「そんな大量に生肉なんて送る馬鹿がいるか!!」

近年こんなに怒った事は無いし、ましてこんなに大声を出した事も無い。
使用人達はそばを通り過ぎる度に頭を下げる。

「あ、あのっ、グレン様っ。こちら、これまでに送られてきた品物のリストです」

かたく強張ってクリップボードをギクシャクと差し出す女性。
フォードでなく何で俺に、と思い眉を上げただけで、彼女は目をうろうろと泳がせる。

「あああああのっ!フォード様からっ、お見せする、ようにと」

それならば、と黙って受け取り見てみると、細かい字でびっしりと書き込まれていた。

「これまでに?」

嫌な予感はしたけれど、一応確認として気になるワードを拾ってみる。

「ああ!はい!まだ続々と送られてきております」
「あぁ、わかった……。ご苦労様」

呆れて目を覆い、溜息まじりにクリップボードを返すと頭を下げて足早に去った。
次は別な使用人が手紙を手にやって来て、先ほどの使用人と同じ反応をしながら渡して去る。

「アイリス・ブラッドフォード」

この迷惑な事態を引き起こした張本人。
読みたくもないが仕方ない。
中学生の女の子と聞いて想像したより字はきれいで、ハートマークは飛び交っているが文面もきちんとしているのを見るとさすが資産家の娘といったところか。

要約するとフォードの予想通り、学校で噂話を聞いて知ってはいたが、街で姿を見た時に好きになった。
だから沢山のプレゼントを贈ります、だそうだ。
沢山にも限度があるだろうと内心その文面へ毒づく。

他の物はまだしも、食料品……特に生物は早くさばかねば大量に無駄になる。

「グレン!ワイン何本か貰っていいか!?あと肉と〜」
「あぁ、是非貰ってくれ」

興奮してワインを抱えるアイラに手をひらひらと動かす。

「いやぁ、仲間に差し入れしてやりたくてさぁ」

まさかその仲間というのは同じく悪魔だったりするのだろうか。
けれど今は考えない事にする。

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