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Desert Oasis Vampire

「何故こんな事に……」

これまでこんな事は無かった。
このテーブルを埋めていく様に、荒々しく無遠慮に入り込んで来る意思。
それに俺は対応出来ずに、ただ狼狽えてそれを突き返す事も叶わない。
侵入する意思に押しやられ、部屋の隅で隠れる様にそれが過ぎるのを待つ。

俺に構わなくたっていい。
いっそ何も見えない様に、姿さえ感じてくれなくたって構わない。
人間なんて信じられない。

「街でちっこいうさぎに夢中になったり、カフェでパフェ頼んだり、可愛い事すっからだろうが。ただでさえ人目を引くのに」
「誰が可愛いか!失礼な!」
「可愛い事実は否定出来んな」

それがたとえ褒め言葉だとしてもちっとも喜べない。
子供扱いで馬鹿にされているとしか思えない。

「いいえ。パン屋でオマケしてもらった時にグレン様が不意に見せた笑顔は、とても男らしくていらっしゃいました」

覚えていない事を誇らしげに言われてもまたこれはこれで嬉しくはない。

「お子様に率直に尋ねられた時も堂々としていらっしゃいました」

それは覚えている。
小学生くらいの子供が寄ってきて凝視しているかと思えば、何を躊躇する事も無く言った。

『お兄ちゃんって本当にヴァンパイアなの?』

発せられると場が凍りつき、真っ直ぐに疑問をぶつけるその純粋さが気に入って思わず笑ってしまった。

『そうだ。だから、私に顔を覚えられない方がいい。お前の血を貰いに行くかもしれないからな』

そう言うと子供は笑った。
けれどそれは半分本当の不安でもあった。
意識を失えばどうなるかわからない。
本当にそんな事になる可能性だってあるはずだ。

「そんな事より、忘れていたがうさぎの名前を決めないと」
「んじゃー、もうシャインでどうだ!」

さっさと適当に決めちまえと言わんばかりの言い方に横目で睨み付ける。
そもそもアイラの案は聞き入れるつもりはない。
しかもシャインとはつけ難いからどっちにしろ却下だ。

「ならば『ルイ』……『ルイ』はどうでしょう?」
「ルイ?」
「友人の名です」

いい名前だと思う。
だけどフォードから友人というワードが出るなんて事が驚きだ。

「お気に召しませんでしたか?」
「いや、そんな事はない」

目を丸くしながら、急いで首を振る。
謎だからと言って、何も友人が居ないわけではないのだ。
フォードにだって大切な友人や家族ぐらい居るはず。

「とても優秀な、信頼の出来る男です。使ってやって下さい」

当たり前な事なのに、自分だけを大事に思ってくれていたんじゃなかったんだと知って、正直動揺している。

「……その人は、今は?」

俺はフォードを失えばそれで終わりなのに、フォードには他に大切なものがある。
子供染みた独占欲かもしれないけれど、否定出来ない汚れた感情が渦巻く。

「グレン様にお仕えする様になって、私はすべてを捨てました。私はその前から持っているものが多くはありませんでしたから」

辛かったであろうその決断に胸を撫で下ろしている。
そんな残酷さを自覚しても仕方ない。

「グレン様のお側で生きられるのなら、それで構わなかったのです」

俺にはフォードだけだから、フォードにだって俺だけであってほしい。
どんなに汚れていても、残酷だって構わない。

「私は貴方をお守りするために居ります」

罪悪感を知りながら満たされる。

「ルイにする。名前はルイだ」

フォードが捨ててきたもの。
今も大事に思っているであろうその名前も今は、自分とフォードを繋ぐ一つのアイテム。


またも使用人が知らせに来たのは同じく贈り物だったけれど、今度は様子が違った。
狼狽えて言ったその言葉に愕然とする。

「ホールに入りきりません。後からまだ送られてきます」
「なら他の部屋も使って下さい」
「かしこまりました」

このたった一部屋だけでも結構な広さがある。
それに比例して玄関ホールだって無駄にだだっ広いというのに、そこだけでは足りないとはどれだけの数が送られてきているのかまったく想像もつかない。

「失礼します!」

間を置かず慌てて入ってきたのはまた別な使用人。

「落ち着いて下さい」
「はい。あの、郵便物ですが、すべて同じ、お一人からのものです」

聞いて思わず声を上げたのはアイラだった。
皆が慌てるのもわかる。

「どなたからです?」
「アイリス・ブラッドフォード様です」

フォードは使用人を下がらせると自分も様子を見に行こうとする。
が、その前にその人物が誰かを聞いておきたかった。

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