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Desert Oasis Vampire

苛立ちを抱えたままに自室へ戻ると、ルイの名を与えられたばかりのふわふわが必死にサークルと戦っていた。
目が覚めた様に怒りは静まり、すべてがどうでもよく思えてしまった。

きっともう、ここら辺で観念すべきなのかもしれない。
いつまでも人間を嫌い続け、恐れて、拒絶しては居られない事を随分先延ばしにして回避してきた。
人間を自分から排除する事で平穏を保った。
例えこうして物理的に侵略されていっても、心は誰にも触れられさえしない事を信じている。

銀色の檻から脱出出来た黒はまるで人恋しかったとでも言う様に、膝をついたそこに擦り寄った。

「ルイ」

自分の名前をわかっているのかいないのか、撫でると首を傾げて見上げた。

ノックの後に現れたフォード。

「戻ってらしたんですね。アイラ様は先程帰られましたよ?」

ぼんやり返事をすると、そばへ寄ってどうしかしたのかと尋ねる。

「お体は大丈夫ですか?」
「心配ない。それより、使用人達は食事はどうしてるんだ?」

フォードは一瞬戸惑ってから、何となく言いたい事をわかってか知りたい情報をくれる。

「食材が定期的に寮へ配達されております」
「それは例えば、急にキャンセル出来たりするのか?」
「ご要望ならその様に。場所は、ダンスホールを使えば足りるかと」

言わずとも先回りして察してくれるからありがたい。

「頼む」
「かしこまりました」


一人になった部屋でソファーに腰掛ける。
ぱたぱたと駆け回る音が耳に入ると笑みが浮かぶようになってしまった。
物思いにふける時も思考が沈んだままでは居られず、ルイという存在が自然に光の当たる場所まで引き上げてくれる。

周囲の存在に支えられて強く居られるなら、実はもう恐がらなくたっていいのかもしれない。
そんな事実に、自分の中の変化に驚いている。
誰かが自分の強さになれば、もう人を恐れ警戒する必要もない。
頼れる大きな強さがある。

ローザが伝えたかった事はこういう事なのかと感じた。
もっと自分達を信じて頼ってくれてもいいのだ、と。
今度彼女と会った時は、その礼を言おう。


しばらくして、フォードが会場の準備が出来た事を報告しに来た。

「大分消費されました。贅沢なメニューに皆喜んで居ります」
「そうか。使用人達総出でかかってもまだ余るなんて、どれだけ大量に送ったんだか」

ほとほと呆れる令嬢にはなるべくならば関わりたくはないが、このまま無視していてもまた送ってきかねない。

「手紙の返事を出して、もう結構だと言っておくか」

それを聞くとフォードはかしこまりましたと言って出ていこうとした。
けれどその前に、と引き留める。

「俺も、そっちで食べる」

目を丸くして言葉を失った後、フォードは珍しく動揺してみせた。

「グレン様っ、お体の事を考えて下さい。いつお倒れになるかもわからないのにっ。だからお食事をこちらにお運びしているのですよ?それに、使用人達と同じ席では示しが…!」
「もう決めた。丁度いいから、親睦を深める晩餐会とでも言えばいいだろう?」
「ですが、お体が」

そこに食事の用意が出来た事を伝えに使用人が顔を出したから、これがチャンスとそれを言う。

「私の席も用意しておいてくれないか?」
「グレン様、いけません!倒れたらどうします!」

使用人の女性も同じく戸惑い、慌ててフォードの顔と視線を行き来する。

「大丈夫だ。何ともない」
「今は大丈夫でもいつ倒…!お待ち下さい!グレン様!?」


フォードの反対を押し切り食事に同席してみたら、ふと今まで自分が他人に敏感になり過ぎていたのだと知れた。
やっぱり物事は、自分が思ったより単純なのかもしれない。

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あきゅろす。
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