Desert Oasis Vampire
2
「俺は悪魔の中でも爪弾き者だ。それでもドールは俺を好いてくれた。尊敬する兄だとな」
素直に、意外だった。
そりゃあ邪悪で危険な悪魔のイメージとはアイラは違う。
いつも人の中心に居て目立つ存在なのだと勝手に思っていたが、そうではなかった。
いや、もしかしたら目立ち過ぎるからこそ爪弾きにあったのかもしれない。
「俺達の世界に似つかわしくない美しさ。まれに天使に近い奴が居るんだ。シャインは特に……。天への道も考えられたはずだ」
その人を、アイラは愛してしまった。
頭に有名な悲劇がよぎる。
身分の違いで引き裂かれ、死して永遠に結ばれる二人。
「俺はその美しさが好きだった。内から輝く、透き通る様な。俺はずっと天使に憧れてたのかもしれない」
「悪魔なのに?」
アイラは一つ頷くと、尖った爪の目立つ指でカップを口に運んだ。
「人は死ぬ。俺は生前決していい人間とは言えなかった。だから深い、底の知れない暗い闇に落ちた」
「待ってくれ、悪い。悪魔は、人か?」
湧いた疑問を自然に口に出してしまっていた。
「最後の審判を知ってるか?」
「世界の終わりに神が人を裁かれる。人間は善と悪、天の国と地獄とに分けられる」
「そんなところだ」
「そんなところ、って」
ひどく簡単に言う。
「じゃあ人間が死ぬと、天国に行くか地獄に行くかで天使になるか悪魔になるかが決まるって言うのか」
考えもしなかった事。
天使や悪魔とは人間を比喩するのに使われるが、本当に人は天使にも悪魔にもなれるのだ。
「正しくは、その時点での魂のレベルを判断される」
人生は魂を向上させるための、魂を磨かせるための場だ。
天から生まれ落ち、魂を磨きレベルを上げる。
そして人は再び天へ還る。
「輪廻転生」
「そうだ。俺達はその大きな流れの中の一滴。一人一人が別のようで居て、それが一つの大きな命を形成している」
ならば人類みな家族という言葉はあながち……と言うより正に、的を射ているという事だ。
人は繋がっている。
人は生まれ落ちるとそれを忘れ、自分達を違うものだと思う。
だから他人を嫌ったり傷付けたり出来る。
そうやって人は罪を重ねる。
「俺はレベルを上げる前に……いや。上げる為に、シャインの事を納得したかった」
地獄と呼ばれるのは魂のレベルの低い世界。
悪魔と呼ばれるのはそこに落ちた人間。
話を聞いてしまうと、たった今まで悪魔が人間とはかけ離れた存在だと思っていたその常識が覆される。
天使に憧れ、天使に近いシャインに惹かれた悪魔は、他の悪魔に爪弾きにされた。
それで転生した先まで追いかけて来た事に納得がいった。
シャインに居場所を求め、心が許せる数少ない支えだったのかもしれない。
ノックがして話はやむ。
フォードはドアを開けるとそこで使用人と一つ二つ言葉を交わした。
「グレン様宛に贈り物があるそうです。こちらに運ぶようにしましたが、よろしいですか?」
「ああ」
一応頷いてはみたものの、何となく素直に喜べない。
届けられたそれらは予想通り誰か知らぬ人物からで、住所からこの街の者だとわかるだけだ。
「これは、どうやって届いたんだ?ここの住所が無いが」
「消印があるから……名前だけでこの屋敷ってわかったんじゃないか?」
「そのようですね」
この前はローザが頼まれてプレゼントを運んできたが、名前だけでも届くとわかってそうしたのか。
「郵便局はそれで受け付けていいのか」
「わかるから届けちまえってもんなんだろ」
そんな事があっていいのか。
苛立った勢いで包みを開けてしまったのが間違いだった。
小さめの箱に入れられていた派手な色の布をつまみ上げて固まる。
「うんわ……」
皆が絶句するそれは男性用の下着だ。
蛍光色の濃いピンクが目に痛い。
「じょ、女性からですよ?一応」
「男から送られてたまるかっ!女性から送られても困るってのに!」
「あ。こっちもだぞグレン。今度は真っ赤」
「何ィ!?」
何に対してこの憤りをぶつければいいのか。
「手作りのパンもありますね」
「この流れでそれは食えねぇだろう。何か入ってそうでこえぇ」
「何か、って……何だ?」
恐いもの見たさ。
誘惑に負けて尋ねる自分も馬鹿だと思う。
「ほら、自分の髪の毛とかをまるで呪いの様に」
「あぁ!もういいもういいっ!」
本当に寒気が背筋を走り抜けてぶるりと震えた。
「ただ純粋に愛情を込めて作って下さったとしたら失礼じゃありませんか」
「ならお前これ食えるか!?送り主の名前も無い手作りパンを!」
「それは……グレン様に贈られた物ですから、私は」
「あー!ほらみろ!食えねぇんじゃーん!」
「違います!私は断じて疑っているのではなく…!」
目を覆い深く深く溜息をついた。
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