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Desert Oasis Vampire
第三話 恐がらないで
風が緑を揺らして抜ける。
昼の高い陽が注ぐテラスはそれだけの音に満たされて、テーブルから伸びるパラソルの影にぼんやりと座っていた。
お茶はすっかり冷えていたが、屋外ではむしろその方が心地よくも思える。

時折浮かぶのは、情けなく気を失ってしまった事。
その度に自分を責めたって何も解決はしないけれど、何故?と出もしない答えを探す。
さくさくと芝生を踏む音でその明るい訪問者に気付く。

「はぁ〜い!グレン!」

大きな紙袋を一つ提げ、手には真紅の薔薇の花束。
それらはローザが貰った物だと思いきや、すべて俺に渡してくれと街で預かってきた物らしい。

「何で、俺に」

テーブルに広げられたプレゼントの山を前に眉間を押さえる。
話した事も無い人から、顔も知らない人からこうして届く物。

「私は別にわざわざ他人のプレゼントを渡してあげなくったっていいんだけど。逆に考えれば、頼まれる私って特別って事じゃない?」

腰に手を当て高笑いするローザの背後からまた前触れも無く現れたアイラは、相も変わらず彼女を怒らせる事を平然と言う。

「グレンは俺のだ」
「はぁあ!?」

悪魔の癖に悪気を感じられないというのが逆にローザの神経を逆撫でする。
本能のままに口にしていれば悪気が無いのは当然だろうが、だからこそ余計気に障る。

「何せ俺達は、前世から繋がりがあるからな」
「あ〜ら!だったら今世でグレンと出会っている私だって、前世でも関わりがあるかもしれないわね?」
「俺はお前みたいなのに見覚えは無い」
「みたいなのって何よ!」

また始まってしまった二人のケンカは最早恒例になっているのか、よくネタが尽きもせず毎度やるな、と思う。
何故こんな自分にこうして物が贈られるのか、なんて考えにも集中出来ず、冷たいお茶を飲み下す。
すんなりと消化出来ない疑問は、積み重なる包みに手を伸ばすのも阻む。

「これはまた沢山頂きましたね。室内にお運びしましょう」

お茶のセットを乗せたカートを押して来た室内の使用人に合図をし、包みの山を運ばせる。

「ねぇグレン?」

言葉を耳に入れない事でケンカを強引に終わらせたローザからの、突然の誘いだった。

「街に遊びに行きましょ?」

ずっと部屋に居るのは退屈だから別に構わないのだが、この街ではあまり出歩く事は無い。
他の街ならば誰も自分の事など知らないから気が楽だが、自分の事が知れているらしいこの街じゃあ躊躇われる。
まったくの他人でいる、その距離が保てない。


黒いスーツに白い手袋。黒い日傘をさした姿は異様かもしれない。
街まで送ってもらった車が去り、俺とフォード、ローザにアイラという派手なメンバーが並ぶ。
悲鳴に似た甲高い声がして、見ると中高生だ。
通りには人が溢れ、どうも落ち着かないこの賑やかな空気に何とか慣れようと努める。

「本当にお持ちしなくてよろしいのですか?」

普段はフォードに傘を持ってもらう事が多いけれど、そうすると余計目立つ気がする。

「いい」

フォードは会釈してから一歩下がって後から着いてくる。
見せたいものがあると言うローザの後をアイラと着いて行きながら、様々な店へと余所見する。

「グレン様」

わかっている。
あまり余所見ばかりしていると危ないと言いたいのだろう。
それときちんとしろ、と。
が、しかし。
どうしてもそれからは目を外せなかった。

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あきゅろす。
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