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Desert Oasis Vampire

その時低い唸り声が発せられ、そこへ二人の視線が集まる。
眉根を寄せたグレンは、胸を掻きむしる様にジャケットを握り、苦しそうに呼吸は乱している。
フォードは何度も彼の名を呼び、埋もれゆく彼の意識を引き止めようとした。
しかし今回もそれは叶わず、彼を押し退けてそれは現れる。

愉快とでも言う様にケタケタと肩を揺らし笑う。
そんな彼を初めて目にしたアイラは言葉を失った。
アイラが観察してきた限り、彼は人を拒む様に、一枚壁を作り人との間に線を引く。
それが彼に出来得る精一杯の防御であり、同時に攻撃でもあった。
他人を撥ね付ける事で自分を、心を守る。

ゆっくりと体を起こし、開いた目は鋭く二人を睨み付ける。
抑制されたすべての感情が剥き出しになった様なその人格。

「テメェ、誰だ?」

低く這う様な声色に乱暴な口調。
人を拒絶する事を手段とするグレンと違い、今の彼には積極的な攻撃性がある。

「これがグレンか?」

アイラは彼に睨まれながら目を離さず、横に立つ彼の執事へ問い掛けた。

外へ向けられた長椅子がグレンのお気に入りの場所だ。
そこは日が当たってしまうから、と執事に何度注意されても手袋もせず、椅子を後ろへ動かす事もしない。
彼なりにこだわりがあるのだろうが、あまり……と言うよりは滅多に、彼に笑みが見られる事は無い。
だからと言って不機嫌かと思えばそうでもないらしく、そうやって光の中で自由な外の景色を眺めるその雰囲気は柔らかで無防備だった。

「俺は味方だ」

わかりやすい言葉で示す。
そして握手を求め伸ばしたアイラの手は不快感もあらわに弾かれた。

「グレン様」
「うるせぇ!」

フォードの手も弾き、首を締める彼を止めようと肩を掴んだアイラは殴り飛ばされ目を見開いた。
普段では考えられない力。
そこでやっと今の彼を別人格として飲み込んで割り切り、力ずくで床に捩じ伏せた。
暴れて怒鳴る彼を押さえながら、咳き込むフォードに怒鳴る様に言う。

「これ、どーすりゃいいんだ!?」

フォードは彼の頭を撫でた。

「お休みなさい」

嘘の様に再び気を失ったその様子を見て盛大に息を吐き出し、アイラはフォードに詰め寄った。

「どーいう事だ!」

説明を求めているのではない。
これがグレンを蝕む呪いなのだとはわかったが、自身と同種である存在への怒りがその中に込み上げた。
そして現実を悲嘆する。

シャインは天使の様に美しかったが、自分を醜い悪魔だと言っては辛そうに目を伏せた。
繊細で今に壊れてしまいそうに見えて、彼は真っ直ぐで凛々しかった。
声も容姿も何もかもが違うのに、グレンにも同じ魅力を感じたのがアイラは不思議だった。
戸惑いは、彼を見続ける内に消えた。

過去に苦しみ、悩まされ。時に耐えきれず心が軋んで悲鳴を漏らす。
フォードだけを頼りに希望を持ち続け、フォードだけを支えに自分を諦めずに居られる。
彼は傷付きやすい一人の人間で、それを悪魔の思い一つで容易く翻弄してしまえる。

運ばれたベッドで落ち着いた呼吸を取り戻した彼を見届けると、アイラはそこを後にした。


目を覚ますとひどく頭痛がして顔をしかめる。
こうなってしまう自分が情けなくて苛立たしく、そしてまた迷惑をかけた事を申し訳なく思う。
ベッドから下りると力が入らず、その場にぺたんとへたり込む。

「グレン様っ」

抱き起こされたフォードにしがみついて何とか体を支えながら、うつむいて小さく呟く。

「ごめん……」
「いいえ」

ベッドに座らされると、目の前に膝をついたフォードは笑みを浮かべた。

「貴方をお守りするその為に、私はこうしてここに居られるのです」

手にキスをしたフォードはそうしていつも許し、甘やかしてくれる。
だからそれが嬉しくて、照れ臭いながらもつい甘えてしまう。
素直に笑みがこぼれるのはそのお陰かもしれない。

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あきゅろす。
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