Desert Oasis Vampire
2
前世だと言われて気にならないと言えば嘘だが、聞くのも何となく恐くて詳しくは聞いていない。
それを知ってか知らずかアイラも言おうとはしないし、今はまだそれでいいんじゃないかと思う。
時々自分が忌々しくなるのは、前世の自分に失礼なのだろうか。
そして自分の命にさえ。
こんな体なら、こんな自分ならいっそ――。
負けそうになる自分の支えはいつだってフォードで、初めからずっと救いであり続けて居る。
現状をうまく消化しきれないまま過ぎていく。
その部屋は地獄だった。
閉め切られた窓には大概鍵がかかっていて、カーテンも開けられる事は滅多に無かった。
ドアさえ頻繁に動く事は無く、食事時や風呂の時間には使用人がやって来た。
言い聞かす様に投げられる言葉自体が呪いに思えてならなかった。
例え嘘であっても、それを真実に仕立ててしまえる、呪い。
呪われた子供。吸血鬼。
ぼんやりと外を眺めるその視界に入り込む派手な悪魔。
心まで見透かそうとする様にじっと顔を覗き込むから、せめて睨み返す。
「きれいな顔なのに、グレンはいつも怒ってばかりだ」
誰のせいだと毒づくと、予想外に目の前の顔には苦笑が浮かんだ。
「グレンには笑顔が似合う」
「シャインがそうだったからか?」
するっと口に出てから、無神経だったと胸が痛む。
けれど苦笑の後には、いつもの調子で悪戯っぽく口の端を挙げて笑った。
「グレンに似合うからだ」
アイラの存在に戸惑いを感じながら、テラスへと続くガラス戸へ手を掛ける。
と、静止するフォードが日傘と手袋を取りに寝室のクローゼット向かう。
その背を見てから再びガラス戸へ手を掛けると、今度はアイラの番だ。
「いいのか?」
寝室をあごで指す。
だが、少し出るだけだから構わずにガラス戸を開ける。
けれど外に出る前に目眩がして座り込む事になった。
「グレン!」
そばに膝をついて呼ばれ、少し遠ざかる音声の中にフォードの慌てる声がした。
「グレン様!」
ぼーっとする意識のままフォードに抱えられソファーに運ばれる。
手放したくない。
このまま気を失ってしまいたくなくて、必死に抗おうとしてもうまくいかない。
体は思うように動かないし、声も息が漏れるだけで出ない。
横になってもまだ揺らぐ景色を諦めずに、立ち上がったフォードの袖を掴む。
呼ぼうとして、はっ、と息が漏れる。
額にひんやりとした手が触れ、霞む視界が暗く消えていった。
だらりと力の抜けたグレンの手を体の上へ戻し、フォードはもう一度彼の額を撫でた。
「貴方の力に反発した様に、彼の中でも同じ事が起こっているのかもしれません」
アイラは一度耳にしただけでは飲み込めず、自分の中で反芻してから聞き直した。
「グレンの中で?悪魔の気配は感じられないが……。呪われた時に力が残ったのか?」
独り言の様でもあるその問いへ返される声色は、普段の穏やかなものよりも暗い。
「当然、呪われている限り影響は残るでしょう。ですから私達はそれを解消したいと思っているのです」
言葉だけで理解したと思っていたそれを現実に目の当たりにし、アイラは重く受け止め、そして同時に彼の力になりたいとも思った。
それを口に出す事はなかったけれども、引き締まった顔やかたく握られた拳などからフォードはその意志を悟った。
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