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Desert Oasis Vampire

前世だと言われて気にならないと言えば嘘だが、聞くのも何となく恐くて詳しくは聞いていない。
それを知ってか知らずかアイラも言おうとはしないし、今はまだそれでいいんじゃないかと思う。

時々自分が忌々しくなるのは、前世の自分に失礼なのだろうか。
そして自分の命にさえ。
こんな体なら、こんな自分ならいっそ――。
負けそうになる自分の支えはいつだってフォードで、初めからずっと救いであり続けて居る。
現状をうまく消化しきれないまま過ぎていく。


その部屋は地獄だった。
閉め切られた窓には大概鍵がかかっていて、カーテンも開けられる事は滅多に無かった。
ドアさえ頻繁に動く事は無く、食事時や風呂の時間には使用人がやって来た。
言い聞かす様に投げられる言葉自体が呪いに思えてならなかった。
例え嘘であっても、それを真実に仕立ててしまえる、呪い。
呪われた子供。吸血鬼。


ぼんやりと外を眺めるその視界に入り込む派手な悪魔。
心まで見透かそうとする様にじっと顔を覗き込むから、せめて睨み返す。

「きれいな顔なのに、グレンはいつも怒ってばかりだ」

誰のせいだと毒づくと、予想外に目の前の顔には苦笑が浮かんだ。

「グレンには笑顔が似合う」
「シャインがそうだったからか?」

するっと口に出てから、無神経だったと胸が痛む。
けれど苦笑の後には、いつもの調子で悪戯っぽく口の端を挙げて笑った。

「グレンに似合うからだ」

アイラの存在に戸惑いを感じながら、テラスへと続くガラス戸へ手を掛ける。
と、静止するフォードが日傘と手袋を取りに寝室のクローゼット向かう。
その背を見てから再びガラス戸へ手を掛けると、今度はアイラの番だ。

「いいのか?」

寝室をあごで指す。
だが、少し出るだけだから構わずにガラス戸を開ける。
けれど外に出る前に目眩がして座り込む事になった。

「グレン!」

そばに膝をついて呼ばれ、少し遠ざかる音声の中にフォードの慌てる声がした。

「グレン様!」

ぼーっとする意識のままフォードに抱えられソファーに運ばれる。
手放したくない。
このまま気を失ってしまいたくなくて、必死に抗おうとしてもうまくいかない。
体は思うように動かないし、声も息が漏れるだけで出ない。

横になってもまだ揺らぐ景色を諦めずに、立ち上がったフォードの袖を掴む。
呼ぼうとして、はっ、と息が漏れる。
額にひんやりとした手が触れ、霞む視界が暗く消えていった。


だらりと力の抜けたグレンの手を体の上へ戻し、フォードはもう一度彼の額を撫でた。

「貴方の力に反発した様に、彼の中でも同じ事が起こっているのかもしれません」

アイラは一度耳にしただけでは飲み込めず、自分の中で反芻してから聞き直した。

「グレンの中で?悪魔の気配は感じられないが……。呪われた時に力が残ったのか?」

独り言の様でもあるその問いへ返される声色は、普段の穏やかなものよりも暗い。

「当然、呪われている限り影響は残るでしょう。ですから私達はそれを解消したいと思っているのです」

言葉だけで理解したと思っていたそれを現実に目の当たりにし、アイラは重く受け止め、そして同時に彼の力になりたいとも思った。
それを口に出す事はなかったけれども、引き締まった顔やかたく握られた拳などからフォードはその意志を悟った。

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