Desert Oasis Vampire
第二話 詛い言―ノロイゴト―
まだ眠い目で眺めるのは、お茶をいれてくれているフォードの手。
てきぱきと進められるその作業にいつも何となく見入ってしまう。
「飽きませんか?」
薄く笑みを浮かべたフォードは視線をカップに下ろしながら問う。
何の事だろうと首を傾げると、お茶の事です。と続ける。
「いつも熱心にご覧になっているでしょう?」
改めて指摘されると恥ずかしくなってくる。
特に理由なんてないから答えに困っていると、フォードはただ静かに笑った。
寝巻きから着替える為に寝室へ戻りクローゼットを開ける。
何気無く振り返ったそこに突如物音も無く出現した、にこやかな悪魔。
驚きのあまりビクついて固まると銀髪の彼は笑みを濃くして口を開く。
「おはよう、グレン」
無断で侵入しておいて何がおはようか、と毒づきたくなるが、ここは冷静に挨拶を返す事にする。
渋々ではあるが、こちらに何か落ち度があってしまえば相手を責めづらい。
「おはよう。何しに来た」
とは言えその次には失礼な文句を並べるのだが。
しかし彼は「酷いな」と傷付いた振りをしてみせている割にまったく笑みを崩さない。
「会いたかっただけじゃ理由にならないか?」
理由になるならないの議論はこの際どうでもいい。
この悪魔が自分に会いたいと思うそれ自体へまだ疑念を抱いている。
それを問い詰めてもうまくごまかされて特にこれといった答えは得られないんだろうと思うと、何を言うのも無駄な気がして諦める。
相手にされないと解ったら自分から諦めずに話し掛けてくる。
「何故俺に構う!」
勢いに任せ寝巻きを脱ぎ捨て、つい苛立って声を荒らげてしまってから少しばかり罪悪感がわく。
けれどその赤い瞳は戸惑いを隠さずに、この身体へと向けられている。
「それ……どうした?」
言われなければ派手な仮想をした人間だ。
痛そうに顔を歪め、痛いか?と気遣う彼はきっと本能に従って生きているのではと思う。
思わぬ事態に先程までの怒りはすっかり冷めてしまった。
「痛くはない」
切り傷や噛み傷が消えずに重なって残る。
「自分でやった」
「どうして!?」
悪魔がそれを責め正論を述べるのだろうか、と思う。
けれどもそれなりに言い訳はある。
「昔、都会の家に居た頃、気を失ったらよく出来ていた」
自分でやったのだろうとは思うけれども、記憶にも、当然自覚も無い。
「呪われた子供」と共に言われたそれが、気を失っている時に現れているのだと思った。
今だって気を失う原因がわからないのだから、もしかしたら自分の知らない内に周りに負担を強いているんじゃ?と不安になる。
「吸血鬼なんだよ」
冗談めいて不安を口にする。
辛そうに笑った彼が悪魔だとまだのんきにも信じきれない。
ソファーに足を組んで座るアイラにお茶を出し、フォードはそばに立つ。
そしてお茶をすすりながらアイラは何か語り始める。
「俺は、無断でこっちに来てる。だから見つかるわけにはいかないんだ」
話の終着点が見えない。
「だから感知されない様に、コレをじゃらじゃら付けて力を抑えてるって仕組み」
そのアクセサリーは単なる趣味じゃなかったんだ、と特に知りたくもなかった事実を知る。
「なのにグレンにはまだ強かったみたいだから、増やした」
言われて見るとチェーンも増えてるし、見た目が余計に煩くなっている。
「これで心置きなくグレンに触れる」
それが言いたかったのか、と呆れて溜息が漏れる。
その為にわざわざ増やしてこなくたっていいのに。
それにしても何故自分だけ傷が出来るほど力に反応したのか。
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