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Desert Oasis Vampire

考えた末に出した結論を口にしようとして、相手がそばに立っている事に気付く。
顔を上げると、赤い瞳があった。

「グレンの力になりたい」

伸ばされた手が、その指先が頬に触れる。
そう思った瞬間。
バチッという電気的な音と共に鋭い痛みがそこに走り、銀髪の悪魔の手は弾かれた。
彼にとっても予想外だった様で、フォードが慌ててハンカチを出す後ろで立ち尽くしていた。

「グレン様…!血が」

ローザはアンタ何したのよ、と彼を責めたけれど、彼もわかっていない様子。
フォードはそばでじっと顔を覗き込み、大袈裟なくらい心配して気遣ってくれる。

「他に何処もお怪我はありませんね?体調は?何かありましたらすぐに申して下さい」

その、胸が一杯になるほどの溢れる優しさがくすぐったい。
家族の様なそれは嬉しいはずなのに、どうしても不安が押し退けてあらわれる。

「故意ではないようですから。きっと事故です」

安心させようと微笑むフォードに何とか笑ってみせようとしたけれど、失敗してぎこちなくなった。

「私は貴方をお守りするために居ります。安心なさって下さい」

それは救済の言葉。


『お迎えに参りました。貴方をお守りするために』

地獄から救い出してくれる天使だと本気で思った。

『私はそのためにやって来たのですから』

助けに来てくれた天使。
牢獄に幽閉された様な生活から救ってくれた新しい家族。
悪魔の正体も呪いについても何もわからないままだけれど、フォードとなら大丈夫だって信じられる。
無条件で、何の疑いも無く信じているから。


執事という最大のライバルを発見した銀髪の悪魔は、名乗り忘れたという間抜けな失敗に気付き二人に割って入った。
が、好かれていないのは明らかなローザにまたも小言を言われる羽目になり、ムッとして睨み返す。

フォードが彼にとってただの執事ではない事を十分察しているローザは、それを無神経に邪魔するのが許せなかった。
一人の青年を巡り悪魔と、自称ではあるが魔女が火花を散らしていた。


ローザがテラスから帰っていった後、アイラと名乗った悪魔は入ってきた時は別にドアから帰ると言い出した。
また来るとグレンに言い、外まで見送られるとその執事に視線を向けた。

「何故侵入を許した?」

じっと探る様に、半ば睨みながら見る。

「生憎、ちょうど席を外していたもので」

主人を危険にさらしてしまっていたかもしれないセキュリティの甘さと油断。
悪魔に対して有効かはわからないが、それを見直し強化する努力をするという回答に納得がいかない様子のアイラ。

「勿論それは大事だがな、責めているわけじゃない。俺の侵入を許した目的を尋ねている」

まるで動揺のかけらも感じられない笑みを浮かべたままのフォードは、変わらない調子で口を開く。

「私が故意に主人を危険にさらしたと?」
「そう思えないから『故意にそうした』目的を聞いてんだろうが!」

心意の読めない笑み。

「大切な主人を、試しに危険にさらしてみる様な事はしません」

おとりになんかしない。
安全だと確信していたから、悪魔の侵入だって許した。
言葉の意味を理解したアイラは勝利を確信したかの様に口の端をあげて笑った。

「実体化してない悪魔の気配まで掴めるのか」

侵入を試みる悪魔が危険ではないと判断出来るだけの能力を、この執事は持っている。
彼の抱える『謎』が掴まれてしまったと思いきや、そんな事は何でもないとでも言うように笑う。

「実体化していなくともちゃんと見えていますから、グレン様をしっかりお守り出来ます」

そして、しれっと言ってのけたフォードに驚かされたアイラは一瞬言葉を失い、気付いた様に叫んだ。

「お前ホントに人間か!?」
「ご安心ください。悪魔でない事は確かな事実です」

この人間をライバル視してはいけないのかもしれない、と思い始めたアイラは早い段階でフォードだけは特別なんだと考え直した。

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あきゅろす。
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