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Desert Oasis Vampire

グレンは無愛想で素っ気なくうつるけれども、一緒のテーブルでお茶をし、耳を傾けてくれている事が既に受け入れてくれている証なのだとローザは思っている。
例えフォードには叶わなくとも、グレンが少しでも気を許すその数少ない貴重な一人には違いないという自信はあった。


ローザの話を聞いていると、突然室内に一人の男が現れたのに気付いた。
いつの間にか出窓が開いていて、物音も無く突如そこに現れていた。
咄嗟に反応が出来ずただ驚いて固まっていると、男に気付いたローザが怒りを露に叫ぶ。

銀髪をつんつん立てたその男は、何者だと怒鳴られるのも構わずニコニコと微笑んでいる。
気味が悪くなり恐怖心が生じる。

立ち襟で軍服にも似た黒い衣装。
赤いラインが入ったそれにはあちこちにアクセサリーがつけられている。
襟元と胸ポケットをじゃらじゃらとチェーンが繋いでいたり、体にもピアスやごつごつした指輪などが複数個目立つ。

「アナタねぇ!不法侵入で訴えるわよ!ここを一体どなたのお屋敷だとお思い?」

ローザは腰に手を当て、銀髪の侵入者を真っ直ぐ指す。

「グレン・アプルシード」

にっこりと微笑み、ローザが目に入っていないかの様に近付いてくる。
無視された彼女は更に怒り、人の話は聞きなさいと怒鳴る。

「グレン、君に会いに来た。ずっと君を探していた」

何処で名前やら住所を調べたのだろう、とか冷静に考えながらも何も言う事が出来ず、目を丸くするだけ。
ローザも呆気にとられたが、銀髪の侵入者に両手で抱き締められたのを見て再びスイッチが入る。

「ちょおっとアンタ!」

大声で怒鳴り散らすローザと、見知らぬ何者かに抱き締められている自分。
こんな時どうすればいいんだ。
会いたかったなんて言われても困る。

薔薇の花瓶を手に戻ったフォードは戻ると目を見開き、花瓶を壁際のチェストに置いた。
助けを求めて見ると、フォードは丁寧にこの招かれざる客人を諌めた。

「失礼ですがお客様。主人は先程帰宅したばかりで疲れて居ります」

すんなり納得した彼は堂々とソファーに腰を下ろし、目の前に用意されたお茶をすすった。
怒りのおさまらないローザは一人離れて別なテーブルに座り彼を睨み付けている。

「どの様なご用件でしょう?」

代わりにフォードが聞いてくれている間に、落ち着こうとお茶に手を伸ばす。

「俺は、彼に会いに。探していた甲斐があった。やっぱり彼は美しい」

恥ずかしげもなくよくそんなセリフがすらすらと出てくるもんだ。
ローザは身震いをして、さすがに黙って居られず口を出した。

「ゾッとしたわ、今!鳥肌よ!いくらグレンが綺麗で可愛くたってね、グレンにそんな趣味は無いわよ!?残念ね!」

詳しく話を聞こうと、ひとまずローザには黙ってもらいフォードは横に立ちながら尋ねる。
何故探していたのか。

「『彼』が好きだから。愛していた。だから探して、会いに来た」

誰の事を言っているのだろう。
目の前に座る招かれざる客人は、自分の名前を口にして「会いに来た」と言った。
俺を探していたと言った。
けれどさっきから『彼』と言うばかりで、目の前の自分を指している様には感じられなかった。

「勘違いだと思いますが?俺は貴方にお目にかかった事はありません」

俺は誰かの代わりになんてならない。

「いいや、勘違いではない。グレン。君は間違いなく『彼』で、俺の愛する者だよ」

よく思い出して、なんて言われたってこっちはまったく覚えが無い。
ローザが「狂ってる」と呆れて呟いたのが耳に入った。

「貴方は一体、誰の話をしているんです?」

話が見えない。
笑い出した客人の言葉を待つ。

「輪廻転生……って信じる?」

空気が、時間が止まった気がした。

彼に会いに来た。
彼を探していた。
彼を愛していた。

俺が『彼』だから、俺を探して会いに。


「俺じゃない。俺は誰でもない…!」

必要とされていたのが自分ではなかったからって傷付いたわけじゃない。
見知らぬ誰かに。
今さっき会ったばかりの人間に。

「グレン様」

口元を押さえ、俺は大丈夫だと言い聞かせる。


呪われた子供だと言った。
誰かが、お前は呪われた子供だ、と。
悪魔に呪われた子だから、家族と一緒にしておくのは危険だと。
それはかつての、古い記憶。

「グレン様。大丈夫ですか?」

心配するフォードに大丈夫だ、と軽く手を上げて合図する。

例え自分が、誰かが大切に想っていた人の生まれ変わりだとしても、それを受け入れるなんて出来ない。

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あきゅろす。
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