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Desert Oasis Vampire
序言
他に見当たるものといったら岩山くらいの、砂漠の地に点在するオアシスの町。
都会へ行けば当たり前の自動車もここでは珍しい。

走行する一台の車には都会でも裕福な上流階級の子息、グレン・アプルシードが乗っていた。

艶のある黒髪と濃い茶色の目を持ち、あまり感情を表に出す事がないクールな青年。
身長は低くはないが体つきは華奢とも言える程。
肌が白く儚げな印象を与えるものの、人を拒む様なその視線は力強く投げられている。


酷く風が強い日だった。
空は一面灰色の雲で覆われ、昼間にもかかわらず辺りは暗い。

「嵐が来そうですね」

運転しながらバックミラー越しに落ち着いた調子で言ったのはクロフォード。
かなりの長身で、長い茶髪を後ろでゆるく束ねた執事。
自分には優しく笑ってみせたり、穏やかな声色で接してくれる。
それは「家族だと思っていただきたい」と言った彼の優しさなのだろうと思う。

欠けていた愛情を、そうやって貰っている気がする。
だけど慣れないそれは素直に貰うには照れ臭くて、ついはね付ける様な態度をとってしまう。


窓の外は相変わらず乾いた大地が続いている。


「フォードは本当は一体いくつなんだ。大体本名なのかも怪しいじゃないか」

『家族』だと言ってもやっぱり執事という仕事があって、自分には主人としての立場がある。
フォードと呼び捨てて下さい、と言われた頃の自分はまだ何も知らなかった。
一つの部屋だけが世界のすべてだった自分には、そうやって一線を画する事も俺の為なんだと。

だからといって、正確な年齢すら知らないのだから謎が多い。
こちらはいたって真面目に質問しているのに、フォードは表情を崩したかと思うと笑い始めてしまった。

「本当の名かなんて…っ、よく思いつきますね」

急に恥ずかしくなって顔をそらしたが、運転席で笑いを堪えるのが聞こえ何だか屈辱的だ。
そんな俺に気付いたのかフォードは咳払いをして笑うのをやめた。

「申し訳ありません。……で、何故そう思われたんです?」

突拍子もない下らない質問にもいちいち何故そう思ったのか、何故そうしたのかを考えてくれる。
だから出来るだけそれに応えようと思う。

「お前が、謎だからだろ!」

目をそらしたが恐る恐るバックミラーへ視線を戻すと、にっこり微笑んでいた。

「大丈夫ですよ。私は、私ですから」

また上手く誤魔化された。

「答えになってない」

でも今日のところは許してやろう。
フォードにどんな過去があって、何者であっても、大切な家族にはかわりない。

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