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極道うさぎに恵みあれ

涙を拭くと、恵はハッと気付いたように謝った。
我儘を言って迷惑をかけてしまったと思ったのだろうが、一弥は「いいんだよ」と言って優しく肩を抱いてやった。

「後で行くから、家に入ってなさい」

恵は手当てをしてねともう一度言ってから、勇に連れられて家に戻った。


一弥が恵の部屋に来たのは夜遅くで、その左手に包帯が巻いてあるのを見て恵はホッとした。
そしてあの男が誰の指示で、誰を狙って来たのかも一弥は隠さずに教えてくれた。
具体的な名前などは伏せてだが、この説明があっただけでも凄い事だ。

「小さな子供なら恐いものは遠ざけて周りが守ってやるけど、恵はもう高校生だ。自分で気を付けるくらいは出来る。逆に何も知らずに無防備で居る方が危険だって場合もある」
「うん」
「“お祖父ちゃん”はそれでも『恵が恐がるだろうから可哀想だ』と反対だったんだが、危険を意識してるのとしてないのじゃ随分違うからね」

恵を思って厳しい意見を言ったつもりだが、恵の目線に合わせて祖父を“お祖父ちゃん”と言うあたり一弥もまだ甘い。
口調も穏やかで優しく、この甘い微笑は恐らく恵だけにしか向けられない。
だからこそ。
相手にされなかった女性の怒りが恵に向かってしまったのだ。

本当に悪かったと頭を下げる一弥に、恵は気遣いじゃなく本心から構わないという気持ちを伝えた。

「だって、いっちゃんが俺を好きって思っててくれてるのも嬉しいし。……役に立てたんだよね?お仕事の。それでいいの。迷惑をかけられたとは思ってないよ」

利用してくれた。
それが一人前になったような気分になれて、嬉しかった。
それだけで浮かれているのがまだまだ子供で未熟な証かもしれないが、それが真実なのだ。

「絶対、守るから。恵にはもう危ない思いはさせない」
「うんっ」

格好いいお兄ちゃんを、恵は誇らしく思った。

「俺だって、恵を失うのは嫌だからね」

珍しく不安を滲ませた一弥の手にそっと手を重ね、恵はにっこりと笑みをつくった。
何も言わなかったけれど、安心させようとする気持ちが伝わって一弥は励まされた。

一弥が不安をこぼすのは恵と二人きりという事もあっただろうが、恵にはそれを口にまでする原因がわかっていた。
恵よりも前に一弥が居て止めたから恵に怪我が無くて済んだが、目の前で恵に殺意が向けられた事にショックを受けたのだろう。
思い出してしまったのだ。
恵がかつて、危険な目に合った事を。


一弥は右手で恵の肩をきゅっと抱き寄せた。

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