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極道うさぎに恵みあれ

恐怖心にぐっと耐え、恐る恐る見上げる。
と、そこに怒りはまったく無く、普通にすました顔でじっと見下ろしていた。
と言ってもやはり彼特有の威圧感や鋭い目付きは変わらないのだが。

あれ?と不思議に思いユッキーを窺うと、楽しげに笑みを浮かべていた。

「あーもう、可愛い。お前もちょっとイタズラして楽しんでんじゃねーよ」

ユッキーが小突いたら、紫央君は片頬で意地悪く笑った。

「俺最近、小動物を構って遊びたくなる気持ちがわかってきた」

ユッキーはそれに吹き出して、意味がわからず不安げにきょろきょろする恵の腕を叩いて謝った。

「ごめんごめん。めぐちゃんがびくびくするのが可愛くってさ」
「真面目に聞いてるのにっ」

拗ねてむくれても、ユッキーは優しくよしよしとなだめて付き合ってくれる。


「で?俺が今家の為に頑張ってるのか?」

恵は腹の辺りで両の拳をぎゅっと握り締め、真剣な眼差しで見つめている。

なるほど。恵はそういう事で悩んでいたのか。と、二人は察した。

「そりゃあ多分家の為だろうな。後を継ぐのにこの年で一人暮らしとかさせられるし、金の管理とか小うるせぇし、いちいち面倒であんな家大っ嫌いだが……。最終的に選んだのは俺だからな」

やらねばならない空気を勝手に感じたのは紫央だ。
継がせるんだからやれと強制されたわけではない。

やらなきゃならないんじゃないかと使命感を背負い、自由に与えられた選択肢から紫央が敢えて自ら進んで選んでやったのだ。

「どうして?」
「腹立つからな。やりもしないで逃げた情けない息子だと勝手に思われるのは。それに、他にやりたい事が無かった。逆に言えば……。多分……それが俺のやりたい事だったんだろ」
「そっか。……そっか」

自分は家の為に、友人を捨てたいと思えるだろうか?
そうしたいと自ら選び、家の為に尽す事が出来るだろうか。


「やっぱさぁ、普通の高校生が考える“家の為に”ってレベルと二人のは全然違うと思うんだよなぁ」

ユッキーは、ベンチに足を伸ばしてだらんと座りながら言った。

「二人のは多分、家に『貢献する』とか……。『利益』とか『名誉』とか、そんなんだろ?家計の為にちょっとバイト始めるみたいなんとは違うだろ。俺にとっちゃあ時代劇並だよ」

遠慮無くズバズバと言って見せるのが清々しくすらある。

「わかんないけど、めぐちゃんちも紫央みたいにそういう、重く考えなきゃいけない家なのかもしんない。だけど俺ら、多分それを理解出来ると思うよ」

嘘の無い言葉。笑顔がそこにあって、恵はただ衝撃を受けた。
崩れない友情というものが、目の前に示された気がした。
いや。恐らく既に手にして、その正体を知っただけかもしれない。
それは堪らなく嬉しい事なのに、詳しくすべてを明かせない事で後ろめたさを感じていた。

それを政幸は恵が迷ってると取ったのか、「嫌なら干渉もしないから」と付け足した。

せっかく差し出された手が。
多分ずっとずっと待ちかねていた手が、自分のせいで傷付き、引っ込められてしまう。

「めぐちゃんが家の事で悩んだりさ、ツラかったりしたら少しは支えてあげられると思うよ」

嬉しいのに、それ以上に酷く悲しかった。

目にはいっぱい涙が溜まって、最早視界は熱く潤んで見えない。

「ありがとう…っ」

恵は両手で顔を覆って、ありがとうと繰り返すしか出来なかった。



また帰るのが遅くなり、三嶋さんと勇君に心配をかけてしまった。
いくら人を周りに着けていても、暗くては危険度が増すからだ。

「三嶋さん」
「はい?」

夕食の準備をする三嶋さんに声をかけると、きちんと手を止めて話を聞く姿勢になってくれる。

「また、あの外人に会った」
「何処でですか!?」

勇君もハッとして、途端にピリッと張り詰めた空気が漂う。

「映画館。“例の女が、また何か企んでる”って」
「わかりました。一弥さんに報告しておきましょう。恵さんに何も無くてよかった」


もしもいっちゃんにダメだって言われてたら。
友達は選びなさいって、これまでみたいに言われてたら。
ユッキーとも紫央君ともこんなに仲良くならなかった。

これから先“捨てろ”と言われたら、俺はそれを迷い無く捨てる事が出来るだろうか。
だけど恐らく、俺はきっと家の為なら。いっちゃんの為ならそうするだろう。

それが俺の望みだから。
きっと選択するだろう。

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