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極道うさぎに恵みあれ

このデレデレとだらしない友人を相手にしていたら話が進まないと見切りをつけ、紫央は渋々話し始めた。

目付きが悪い上に眉間にシワを寄せ睨み付けるのが悪い癖になっている事だけが、恵が紫央を怖がる理由じゃないと紫央はわかっている。
だから少しは優しい言動をとってやろうと思うのだが、何せこんな小動物を相手に真摯に向き合った事がないから加減がわからないのだ。

結局鋭く見下ろしたまま、話を始める羽目になる。

「親の教育方針で、自立心を養う為に高校から一人暮らししてるんだ。父親が会社を経営してるから、後を継ぐ為の勉強だよ」
「大変だよなー。よかった、そんな家じゃなくて」

家が金持ちで一人暮らしもさせてもらえるのだから羨んでもおかしくないのに、政幸はそれを苦労だと思っている。

「要求した分だけいくらでも金をくれるわけじゃない。家賃とか生活費とか必要な分は出してくれるけど、あくまで金の使い方を勉強させる為だから、全部報告しなきゃならない。ムダな使い方をすれば指摘されるし、それによって支給額も変動するからちゃんと管理しないとならない」
「あの、でも……。嘘の報告したらどうなるの?」
「領収書とか証拠も全部出すけど、水増し請求が発覚したら後継ぎを失格にされる。オヤジは本当にそうする人間だ。一人息子だからって理由では認めてもらえないから、努力をして成果を見せないとならない」

ユッキーは俺には絶対ムリ!と首を振った。

「金は絶対に余るだけ貰ってるから、残ったからって全部使うようじゃ失格だ。貯金をして、それも毎月チェックされる」
「もし、欲しい物があったらどうするの?」
「要は堅実な運用だから、日頃からきちんとムダ無くやって貯金があれば、そこから好きな物を買ってもいい。毎月使いすぎて貯金が無くても、欲しい物があるからって言って余計に金は貰えない。それは自分が金の使い方に失敗したせいだ」

冷酷に映った父親のルールと、今では納得出来る筋の通った説教。
それを人に説明しているのを紫央は不思議に思う。
自分で選んだ道だが、そうするしかなかったんじゃないか。と父親への反発が強かったのに、当たり前のように自分の事として話している。

「料理とか洗濯とか掃除とか、全部紫央君がやるの?」

恵は身を乗り出して問い、そうだと紫央が頷くと尊敬の目できらきらと見上げた。

「だから学校の昼飯くらいは買ってるんだよ」

何もかも正反対だ。
恵は全部やってもらって、甘えた生活を送っているんだと思った。

「すごいなぁ。いっちゃんも早くから家の仕事の勉強をし始めたから、大変だったんだろうなぁ……」
「それでお兄さんが家を継いで経営者か。しっかしさぁ、同じお坊っちゃまでもこうもタイプが違うかねぇ?」

政幸は恵と紫央を見比べ、面白がってニヤニヤと笑った。

「めぐちゃんはこーんな可愛いのにぃ」
「人んちでいちゃつくな」

政幸はまた恵に抱きついて、紫央は見苦しい!とイライラ言い捨てた。
いちゃつくと聞いてスイッチが入ったのか、紫央の話が終わるのを待っていたのか、政幸は本格的に恵にべったりくっついて口説き始めた。

「めぐちゃん、好きなタイプは?」

紫央は呆れたが、一応気を使って飲み物を取りにキッチンに消えた。

「んー……、わかんない。ユッキーは?」
「もーう!俺はもちろんめぐちゃんだよー!今までは男だとちっちゃくて可愛い子がタイプだったけど、めぐちゃんはそーゆーのとは違った可愛らしさというか、愛らしさというか…!素直で優しい性格も好きだし〜。キレイな顔してるね〜?」

キッチンの紫央は、聞きながら「デレデレすんな気色悪ィ!」とこっそりツッコんだ。
自分でくっついたくせに、話している途中で恵に見惚れて思わずキレイだと口走ってしまったのだろうと容易に想像出来る。


「あの。ユッキーは、俺が……好きなの?」
「え?好きだよ?だからずっと言ってるじゃん。めぐちゃんが好きだって」

何だか若干気まずい空気を察した紫央は、ペットボトルのジュースを三本持ってリビングに戻った。

「お前が軽薄なヤツだからだよ、アホが」
「はぁ〜?見た目不良で怖がられるヤツよりはよっぽどマシだね!」
「お前とは重みが違うんだよ、重みが」

紫央はジュースを置き、見てろ。と恵の手首を乱暴に奪った。
当然怖がるだろうと踏んで、政幸の方が優しいと思わせる為にわざとだ。

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あきゅろす。
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