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極道うさぎに恵みあれ

恵はぎゅうっと抱き締められ、政幸の膝に乗せられていたが、何の疑問も持っていない様子だ。

紫央が見苦しいと言っても政幸は聞かないので、今度は恵に訴える。

「藤城も鬱陶しくないのか。抵抗しろ」

しかし恵はきょとんとして、何で?と首を傾げた。

せっかく出来た大切な友達であるユッキーが、どんな種類かはわからないが好きだと言って親しくしてくれてるのに。
今はどんな事だって嬉しいし、楽しいのだ。


紫央はイライラしながら溜息をついた。

その場の冗談ならまだしも、男も愛せると公言している人間に同性愛的なものを見せられると、生々しくて拒否反応が出てくる。
紫央は友人だから今更何の抵抗も無いが、問題は周りで見ている人間だった。
政幸は気付いても知らぬ振りを通すから自業自得だが、嫌悪感を露にする者も居るし、嘲笑する者も居る。
それらの厳しい視線に晒すには、恵はとても素直過ぎる。
知るものか。と弾き飛ばさずに、素直に受け入れてまんまと傷付いてしまいそうなのだ。

自分なりに少しでも気にかけて、面倒を見てやらないと。と思わせるだけ、紫央にとっては特異な人間だ。
動物を飼う事に強い欲求はこれまで抱いた事はなかったが、きっと動物を愛でるという事はこういう感情からなんだろうな。と理解した瞬間だった。


紫央が新たに面倒な役割が増えてしまったと少し億劫に思っているのも知らないで、政幸は楽しそうに休日に恵と遊びに行く約束を取り付けている。
チャンスだから二人きりで行けばいいのに、何故かそこに紫央も加わっている。
恵は政幸を友達だと思っているから、紫央も含めて行った方が恵も喜ぶだろうと考えての事だ。


「今日帰りにどっか寄ってさぁ、何処に行くか決めよーよ。ね?」
「あ、うん。じゃあ、家に電話してからでいーい?」

こんな時だから、本来ならば余計な手間をかけさせないようにおとなしく帰るべきなのだが。目の前の“友達と寄り道”という憧れには勝てなかった。


休み時間に教室を出た恵は、恐る恐る三嶋に電話をかけた。
目立つ行動は控えて。と言われたら、今の状況が解決するまで延期するしかない。
しかし三嶋はすんなりと許可してくれた。

「本当にいいの?」
「はい。もとはといえばこちらに原因がありますから。これ以上恵さんの日常生活のご迷惑にならないように責任をとるのは当然です。ちゃんと目立たないような形で見張りをつけるので、安心してご友人と楽しんでらして下さい」

電話を切った後も、信じれない気分だった。
楽しみでもあるけれど、未知なる“友達と寄り道”という事に不安を感じてもいた。


ファーストフードに友達と来るのも、食べながら何気ない会話をするのにも慣れないのに、これから紫央の家に行こうという事になってしまった。
家族の事には敏感らしいから心配したが、どうやら紫央はマンションで一人暮らしをしているらしい。

「すごいねー!」

しかもそれがまた1DKで、高校生の一人暮らしには贅沢過ぎるほど広い。
リビングだけで十畳ほどあり、置いてる物も少ないから更に広く感じる。
しかし高校生が何故こんなマンションの四階に広い家を持てるのか謎だった。


「だから紫央んちにたまりやすいんだよねー」
「大人が居ないから好きに出来ると思ってるヤツは家に入れないし、そんなヤツとは縁を切る」
「隠れて酒タバコをやりたいってヤツの事」

ユッキーは紫央の言葉を補足し、意外だろ?と笑った。

「だけどその点、めぐちゃんは友達としても大合格だね。お前の姉ちゃん、めぐちゃんのお兄さんの事気に入ったっつってたんだろ?理想が高過ぎて婚期逃してる姉ちゃんがさぁ」
「連絡先仕入れろってうるせぇから無視してやる」

政幸はそれに吹き出して、恵には優しく笑ってみせた。

「聞いてもいいんだよ?」
「……でも…………」

どうして一人暮らしをしてるのかとか、お金はどうしてるのかとか、何で家族の話はしちゃいけないのかとか疑問は沢山ある。
それを聞いてもいいと言われても、また紫央が怒るのでは?と怖じ気づいて聞けないのだ。

「ほらみろー!やっぱオメェこえーんだよ!めぐちゃん見ろ!こんなに可愛いのに!」
「いや、可愛いから何だ」
「もっと優しくしてやれって事!ねぇー?めぐちゃーん?」
「テメェ、そのデレデレ具合気色悪ィんだよ。女にもそんな事しねぇクセに」
「だってめぐちゃん可愛いんだもの!」

政幸の理屈に全面的には納得出来ない紫央は呆れて政幸をジロリと睨んだ。

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