極道うさぎに恵みあれ 6 「かわ…っ、いいけど」 確かに可愛いサイズだけれど、それを見て何故自分を連想したのかが疑問だ。 「俺ちっちゃくないし、トゲトゲしてないのに?」 「可愛いと思ったら意外と意地張って頑張ったりするからな。小さいのに針生やして頑張ってるコイツと似てる」 まぁ確かにそう言われてしまうと頷ける気もする。 いっちゃんが花屋でこれを買ってると思うと可笑しいけど、自分を思い浮かべて自分の為に選んでくれたものだ。 「嬉しいっ。飾るー」 「恵の部屋は殺風景だから緑を置いた方がいいと思って行ったんだが、これを見たらこれしか目に入らなくて」 「その為に……?」 わざわざその為に足を運んでくれた。 にこりと笑ういっちゃんに抱きつく。 「いっちゃん好きー」 「俺も、甘えん坊な恵が好きだ。世界で一番大切だって言える」 「いっちゃん、酔ってるからでしょ?そんな事言うの」 「だから甘えてるって言っただろう?」 いっちゃんの「甘える」には、普段口にはしない事を自分に許す事も含まれているらしい。 それから一緒にお昼を食べる友達が出来た事とか、運転手さんと最近初めて「行ってらっしゃいませ」「行ってきます」以外の会話をした事とか、些細な事でも何でも話した。 その内にだんだんまぶたが重くなって口が回らなくなっても、眠ってしまうのがすごくもったいない。 寝なさい、って言われてもまだ諦めがつかない。 「また、来て……?」 「ああ。必ず会いに来る。だからもうお休み」 「いっちゃーん?」 触れた手を放せないまま、もぞもぞと元の位置に戻る。 「何だ」 もう目を開けていられない。 「お休みなさい」 「ああ。お休み」 眠りに落ちる間際、額に温かい手が触れた。 朝になって起こされた瞬間、三嶋さんが興奮気味に何か喋りだしたけれど、寝起きの頭ではその意味まで理解出来なかった。 「んぇ?ごめん……もう一回」 「ですからっ!恵さんも既にご存知と思いますがっ、一弥さんには前々から決められたお相手がいらっしゃいます。いいですね?」 「んー。あの、あれでしょ?……彼女じゃないけどー、おじーちゃんが決めたー、この人にしなさいよ、って人」 ベッドの上に一応座ってはいるけれど、目を瞑りながら眠気に耐え何とか脳を働かせる。 「そうです!で、ですね?当初から一弥さんは乗り気ではなく、と言うのも会長が仕事の関係で決められた事だったからなんですが」 「会長?おじーちゃん?」 「はい。それがまた仕事の事情により別に結婚しなくてもいい、って事になりまして、昨夜はその関係で相手方と会うって事だったんです」 大分噛み砕いてわかるように説明してくれているけど、それを自分に聞かせていいのだろうか。 「つまり、こっちから結婚を前提にお付き合いしませんか?と告白しておいて、やっぱりいいですと振る失礼な形になるんです」 こっちが言い出した事ではあるけれど、いっちゃんにしてみても勝手な事だと映っただろう。 だからその怒りと、相手への配慮から「そう」する事を選んだのだと思う。 そこでやっと一回目で頭に入ってきた内容と繋がった。 待たされてやっと付き合う事が出来るのかと思えば、相手は弟の話ばかりしている。 弟が大事で、弟が居れば他はどうでもいい。 そんな事を言えば相手は弟思いの良き兄ととるか、自分は眼中に無いと言われたととるか。 後者を選び、怒った相手から縁談を撥ね付けるという形を狙った、兄の賭け。 そして勝った結果、今に至る。 「会長は一弥さんのやり方に少々ご不満なようですが、組の者は皆喜んでいますよ」 語る口調が再び興奮し始める。 「ご兄弟の絆の強さ!愛の深さがあってこそ!私達は組織の中で生きてはいますが、恵さんを含めた『家』の中で生きていると思っています」 聞いて、目が冴えた。 「今朝一弥さんが、恵さんは一人ではないのだと伝えてほしい、と。だから話しました」 振り回されて疲れて、甘えに来たいっちゃんは、本当に話した事をちゃんと覚えていた。 いっちゃんに必要だって感じたいと、寂しいと言った気持ちを覚えていた。 離れていても繋がっているのだと伝えてくれた。 「あ!恵さん、早く着替えて下さい!」 「あーっ、はいはいっ」 余韻に浸る間も無く、遅刻しそうな朝を急ぐ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |