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極道うさぎに恵みあれ
第二話 寂しさに耐えるうさぎ
車を下りて運転手さんに手を振ると、彼は深く一礼してからいつもの様に人目を気にしながら手を振り返した。
組の人間に見付かると立場を考えろと叱られるそうだが、こちらにだって責任があるのに不公平だ。

角を曲がり車が見えなくなると、見覚えのある後ろ姿を発見して駆け寄る。

「紫央君っ、おはよう」
「おう」

合わせた目は怖じ気付いてしまうほど強い力を帯びている。
一瞬恐いと感じたのが伝わってしまったのか、それから黙り込んでしまった。
謝るに謝れず気まずい沈黙が流れる。
が、それを破ったのは彼の方だった。

「お前は壁を作らない奴だな」
「……好きじゃない?」

いきなり馴れ馴れしく接し過ぎただろうか。

「いや、珍しいと思って」
「そーお?」
「政幸は比較的誰とも上手くやれるけど、いくらそいつに紹介されたからって俺みたいなのは嫌だろ」

紫央君の事はまだよく知らない。
だけどもしかしたら、組の人達みたいに恐い外見だけで敬遠されたり、誤解されたりするのかもしれない。

「『みたいなの』じゃないよ?」

組の人達と話すとたまに言う。
自分達みたいな者は居るだけで疎まれる。

「皆よく知らないだけだよ。恐いと思って話を聞かないから。ちゃんと話したら仲良くなれるのに」

小さい頃から家には沢山の恐い大人が出入りしていて、抱っこされてもぎゃーぎゃー騒いで恐がった。

「だからー、仲良く出来る……よね?」

一方的に思っても、相手がある事だからダメだ。
紫央君は目を丸くしている。

「嫌?」
「警戒心の薄さは幼稚園児並みだな」

ふっ、と吹き出して言う。

「俺本当はちょっと、そのキャラ作ってんじゃないかって思ってた」
「キャラ?」
「だけど『よく知らないだけ』だった」


やっぱり、話してみないとわからない。
それなのにクラスの人達は紫央君を苦手に感じて、俺が脅されてるから無理に付き合ってるんじゃないかと言い出した。
冗談っぽいノリとはいえ、あまり聞きたくはない。

「コラァ!俺らをネタにめぐちゃん口説こうとしてんじゃねぇ!」
「イジメられてたら可哀想だと思って聞いてあげたんじゃーん!」
「善人振るなバカ!腰に手ェ回してんじゃねーよ!」

訳がわからない内にユッキーに引っ張られて皆と引き離された。

「めぐちゃんはそーゆーのわかんねーの!いーい!?めぐちゃん!あいつら下心あるからね!」
「お前程じゃねーわ!」

何で口説いている様に見えたのか疑問に思いながら席に座ると、紫央君がジロリとこちらを向いた。

「お前さぁ」
「うん」
「男に好かれるタイプ?」
「うん?」

組の人達にはよく思ってもらってると思うけど、つまり紫央君が聞きたいのはさっきの「口説く」やら「下心」やらと関係あるのだろう。
いくら中高一貫の男子校だと言っても本気で恋愛感情を抱いたり抱かれたりなんてあるのか。
ユッキーは好きって言ってくれるけど、友達として仲良くしてくれてるからだと思っていた。
本気かそうじゃないかなんて、本人にしかわからない。

「それ、冗談で言ってるの?」

騒いでいたユッキー達が急に静かになった。

「どういう意味?」

さっき皆がふざけてたから、冗談を言ってからかってるのか。
皆がふざけてたのを聞いて本気で疑問をぶつけたのか。

「ちょっと、お前何言ったの?」
「男に惚れられんのかって」

ユッキーの顔が引きつってる。

「ごめんね、めぐちゃん。俺らめぐちゃんがそーゆー冗談嫌いだって知んなくて。ホントごめん」

重い空気が流れる。
怒ったんだと誤解されている。

誤解される事に慣れていたのかもしれない。
だから痛みに鈍くなって、「もういーや」って放っておけたのかもしれない。
話してみなきゃわからないそれが面倒に思えて、だから放っておけたのかもしれない。

さっきの冗談が嫌か嫌じゃないかで言ったら、正直どっちでもいい。
大事なのは皆と仲良くする事だから、皆が楽しいならそれでいい。
だけどそもそも、それは冗談で済ましていいものなの?
本気かどうか本人にしかわからない思いを、冗談を前提にして話していいものなの?

「怒ってないよ?」

言わなきゃわからないのに上手く言えない。
何も伝わらない。

チャイムがそれ以上の説明を阻んだ。

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