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極道うさぎに恵みあれ

ここ何年も食事はほとんど一人だった。
三嶋さん達は立場上、一緒のテーブルにつく事は出来ない。
兄も滅多にこちらの家には顔を出さないし、来てくれたからといって一緒に食事をとれると決まってるわけじゃない。
それに三嶋さんは、お昼は一人で、自分のペースで食べるのが一番です!って熱弁するし。

「ユッキーは、いいの?」

嬉しいけど、合わせてくれてるんじゃないか気になる。
無理させていたら申し訳ない。

「だぁー!可愛いな!いいも何もこっちからお願いしたいくらいだっつの!」
「誰かとご飯を食べるのはあんまり無いから、嬉しい」

今度は床をバシバシ叩いていたユッキーは、聞くと急に黙ってしまった。
そんな空気を打破すべく話をそらす。

「あのお友達は?」
「いいのいいの!紫央は一人でも。ほっとけ」
「何がほっとけだ、コラ。テメェが俺の昼飯持ってんだよ」
「チッ!!来やがった…!」

また言い合いを始めた二人。
恐いお友達と一緒だと、ユッキーまで雰囲気が恐くなる。
きっとそれが本来の彼なんだろう。
それなら、にこにこ楽しげに笑っている姿を見てお友達が気持ち悪いと言うのもわかる。

「めぐちゃん!今度からは三人で食べよっか!?ね!?」

向けられた笑顔の向こうには腕組みをしたしかめっ面。
明らかに反対派に見える……けれども、何か口を開けば怒声が飛んできそうで怖じ気づいてしまう。
チラチラと合わせてはそらすという失礼な目線を追って、ユッキーは前と後ろに顔を動かす。
そして後ろに向けた声には聞き慣れた陽気さは無い。

「お前ビビらすんじゃねぇよ」

ユッキーに言われて返ってきたのは舌打ちだった。

「俺はこれが普通だ」

見た目だけで恐いと決めつけて、勝手に恐がるのは失礼だった。
うちの組の人達だって本当は、ちょっとくらい恐く見えても優しい人達ばかりだ。

「あー、あの、ね?」

クルッと振り向いた顔は、うん?と傾げて笑む。

「嫌じゃなかったらでいいんだ、本当に」

せっかくのチャンス。
恐がって逃してしまうのは勿体無いけれど、無理強いするのも気持ちよくない。

「でもきっと、三人で食べられたら楽しいよね?ご飯は多い方が、ね?」

へらっ、と笑うとユッキーは目を丸くし、その後ろでは腕組みをしながら眉がぴくりと動いた。


最上段、隣にはユッキー。
その何段か下には「紫央君」

恐いという事は否定せず、いい奴だから、と改めて紹介された彼。
紫央でいいとは言われたけれど、人を呼び捨てにするなんてドキドキするから遠慮した。

「美味しいっ」

三嶋さんが作ってくれたお弁当から愛情が伝わる様で、微笑みを隠せない至福の時。

「めぐちゃん…!幸せそうに食べるね」

片手にかじりかけの焼きそばパンを持ち、右の拳でその額を押さえるユッキー。

「デレデレすんな、男好き」
「そりゃあデレデレもしますって、紫央さぁん!」
「さん付け……男好きは肯定とみていいのか」

その後もユッキーが笑って話し掛けてくれる度に、紫央君は違和感があるのかツッコんでいた。


帰りに、これから何処か遊びに行かないかと誘ってくれたけれど、もう帰りの車が待っている時間だから断った。
車の送り迎えがある事はもしかしたら家の事に繋がるかもしれないから、と三嶋さんに口止めされている。
だから今日はダメなんだとだけ言って校門で別れた。

もっと早く知っていれば迎えを断る電話をして遊びに行けたのに。
若干拗ねながら家の門をくぐる。
日本庭園の先に見える縁側に視線をやるのはもうすっかり癖になっている。
期待する顔がちょうどタイミングよくそこに現れるなんて、確率的にすごく低いのだろう。
けれど、スーツを着たその後ろ姿がちらりと見えて足を止める。
黒髪をさらりと後ろに流した長身は足早に去って行った。

きっと忙しいのだろう。
石が敷かれた道へ視線を落として踏み出す。
と、前方から届く声。

「お帰りなさい、恵さん」

微笑んだ顔は、少し困った様に眉が動く。

「一弥さんは恵さんが大事なんですよ。家業に恵さんを関わらせたくないんです」

わかっている。
こちらの家に来る事も許されてはいないし、だから会いたいと思っても自分は待つしかない。
いつもの様に自然にバックを持ってくれる三嶋さん。

「お手紙を書いてみたらどうでしょう」
「手紙?」

無かった発想に目を丸くする。

「きっと喜んでいただけますよ」

携帯への電話やメールもずっと躊躇っていた。
関わらせたくないと思っているのは知っていたし、何より仕事の邪魔になってしまうんじゃないかと思ってしなかった。
手紙なら、邪魔にならないいい時を見計らって渡してもらえる。

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あきゅろす。
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