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シリーズ・短篇

泉はまた、自分が溜息を吐いているのに気付いた。
今までは人間関係で問題が起きれば突き放して切り捨てればよかったのだが、それが最低だと自覚してからしないと決めた。
そうなると、問題が起きた時に相手を傷付けずにどう解決するのかが難しくて正直疲れる。
挙げ句、どうしてそこまでして気を使ってやらねばならないのかと思えてきて自己嫌悪に陥る。

「どうしたんですか?」

また彼に心配された。
篠田君達は、あれからよく気にして声をかけてくれる。
それを今はありがたいと感じられるようになった。

「彼氏さんにムチャされたとか?」
「ちっ、違う!やめてよ!」

藤堂さんの事で湧いた疑問をぶつけてしまったばかりに、篠田君以外の二人にこうして言われる事があった。
それはとても狼狽える事だった。
彼らの様に軽い冗談としてとれないのだ。
けれどそれは悪意のある揶揄でないとわかったし、同性愛に差別意識も嫌悪感も無いからこそ言える事だと理解すれば決して不快ではなかった。
反応が新鮮だから面白がられてるのはあるだろうが、人と恋愛や性的な話をする事に慣れてないので耐性をつくろうとしてくれていると解釈している。

彼らを介して知り合う人も居て、それは余計に気を使う事だった。
信頼し始めている彼らの友人だけに、対応に困るからといって無視もできない。

「香山さん!引っ越したって聞きましたけど、もう荷物片付きました?」

特に、泉はこの男が苦手だった。
一度会って紹介されただけだが、最初から壁をつくらずに親しく接するその距離感が近すぎて戸惑うのだ。
彼に過失は無い。
人とすぐ仲良くなれるタイプなだけだ。

「引っ越しって面倒ですよねー」
「ちょっと佐伯、ストップストップ」

佐伯はえっ?と驚いて静止した。
泉も一緒にきょとんとしてしまい、どうしたのかときょろきょろして窺った。

「普通に接すると香山さん恐がっちゃうから」

篠田達は声を抑え、佐伯に注意した。

「え?普通に、って?」
「だからちょっと引いた方がいい」

彼らが言った通り、彼らは物理的にも近くに寄らないし、馴れ馴れしい言動はとらない。
泉はそんな気遣いがあったと初めて察した。

「あ……ごめんっ」

せっかく親しく接してくれるのに、不快な思いをさせたのでは?と慌てた。

「あんまり人と関わるのに慣れてないから、ちょっとびっくりして……」

篠田君達は、人と関わる楽しさ、嬉しさを教えてくれた。
だからその友人にも失礼な態度はとりたくない。

「でもそれだけ。嫌とかじゃないから、気を悪くしないで?」
「何だ、そうだったんですか」

慌てて言うと、気をつけますね。と、にこやかに言ったからほっとした。

「僕こそ、気が回らなくて失礼な態度をとったらごめん」

日々学習で、日々反省だ。
彼の様にとまではいかないが、もっとうまくやれるようになりたい。
その後も変わらず接してくれたが、いつまでもその距離に慣れなかった。
近くに来られると反射的に身を引いてしまうし、沢山言葉をかけられると対応しきれなくなる。
僕はそれが息苦しく、つらくなっていた。

黙るより喋るべきだというのは、これにも適応するだろうか?
嫌な話を聞かされて、鬱陶しいと思わないだろうか?
迷ったけれど、藤堂さんは年上でずっと多くの事を経験してるだろうから、意見を聞きたかった。

部屋に居ないので、書斎をノックすると低い声が返ってきた。
そろっと開けて覗くと、彼は机に向かっていた。

「何だ。どうした」
「あの……今、いいですか?邪魔だったら後で」
「いい、来い」

言い終える前に手招きされた。

「珍しいな。お前から来るのは」

嫌がられたらいけないと思って、来いと言われた時しか部屋には行かないようにしている。
あまりきょろきょろしても探ってるようで嫌なので、おとなしくして側へ行く。

「あっ」

膝に座らされ、慌ててしがみつく。

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あきゅろす。
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