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シリーズ・短篇
11
大学の学食で一人、昼食をとっている。
窓際の席は日差しがあると温かくて気持ちがいい。
ここでこうして過ごしていると、藤堂さんと居る自分が別の人間のようだ。

「ここ、いいですか?」
「どうぞ」

三人で隣に座った彼らは、食事をしながら彼女やら合コンやらの話をしている。
僕にはそれがとても信じられない。
特に、時折下品な話が出ることが。
“そういう”方向の話題をすべて下品とは言わない。が、彼らの口振りがそんな印象を与えるのだ。

はたと気付いてそちらへ目を向けると、僕が非難したとでも思ったのか、気まずそうに口ごもってしまった。
やはり、その中に以前心配してくれた彼が居た。

「ねぇ。聞いてもいいかな……?」

藤堂さんが悪いんだ。
馴れない僕にいきなり生々しい話をするから。

僕から話し掛けたのが珍しかったからか、僕が羞恥を感じ動揺を見せているからか。
彼らはあんぐりと口を開け、こくこくと頷いた。

「“そういう”話を普通にするけど、その……。皆、平気なの?」
「そういうって……?」

何て言えばいいだろう。
下品な表現はしたくない。

「ん……だから、そういう……。いやらしい、話とか……」

変な質問をしているのだろう。
聞くだけでも恥ずかしいのに、え!?マジで!?と大きな反応をされると尚更頬が熱くなる。
嫌味や非難などではないと信じてもらえて助かった。

「あの、今のような会話が平気かと言われれば全然平気ですよ。普通です」

驚きながらも答えてくれたのはあの心配してくれた彼だ。
やっぱり藤堂さんがするような会話も恋人同士なら普通で、僕が過剰に恥ずかしがってるだけだろうか。

「いやらしいっていうか、冗談ですよ。笑い話です」
「いやらしいの内に入らないですけどね、俺達の場合」

自分達の場合。とつけ足して気遣ってくれたのがありがたい。
しかし羞恥で倒れそうだ。いっそ消えたい。

「……そうなんだ、やっぱり。僕が馴れないだけなのかな。ごめん、ありがとう」

熱くなった頬を押さえ、はぁっと溜息を吐く。
藤堂さんに面白がって笑われるのも当然だ。
皆がただの冗談だと思う事も、僕にはいやらしいカテゴリーに入ってしまう。
恥ずかしくてもう逃げてしまおうかと思ったが、もう一つ大事な確認が残っている。

「あのっ、もう一ついい?」
「はいっ」
「何でしょう!」

口にするには勇気が要る。

「すごく、変なことを聞くけど……」

声を抑えて顔を寄せると、彼らは察して耳を寄せてくれた。

「男の人って……やっぱり、気持ちと行為は別なものなの?」

藤堂さんは、気持ちが伴ってる行為はお前とだけなんだからいいだろうと言ったけれど、僕にはいまいち納得できない。
開き直ってるだけだと詰め寄りたいが、そんな堂々と当たり前みたいな顔で言われたら自信がなくなる。
僕より藤堂さんは大人で、経験も全然違うだろうから。
体だけの相手は切ったらしいが、風俗は別モンだとか意味不明な事を言うからますます混乱する。

「行為だけなら、風俗くらいは許すものなの?」

僕には藤堂さんだけなのに。
こう考えて押し付けるのは鬱陶しいのだろうか?
顔を寄せたまま、彼らは声を潜めて答えてくれた。

「個人的には風俗は見逃してほしいって思うけど……」
「だけど女の子にはそんなのもイヤ!って子が多いよね」
「浮気に入るか入らないか、人によって別れるところなんですよね」

僕は女々しいんだろうか。
今は反応を見て喜んでくれるけど、その内煩わしく思うようになるかもしれない。
藤堂さんは一生俺のものだって言ってくれたけど、やっぱり不安にはなる。

「彼氏さんですか?」

変な質問も笑わずにちゃんと答えてくれて、心配して気遣ってくれる。
それがとてもありがたく、嬉しく思えた。
頷くと、彼らはその彼氏が信じられない!と味方してフォローしてくれた。

「香山さんが彼氏なら、他が目に入らないですって!」
「こんな美人なのに、贅沢な!」

人との会話がこんなに楽しくて、嬉しいものだと思わなかった。
それもこれも藤堂さんが居なかったら知り得なかった事だ。

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