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シリーズ・短篇
10
「お前、ひっぱたくぞ」

舌打ちをして、獣が唸るように凄むとやっぱり恐くて、反射的に体がふるりと震える。
怯えさせたのに気付いた藤堂さんは、ハァッと息を吐いて落ち着くと、するりと背を撫でた。

「俺は男ほど女が好きじゃない。相手にはできるが、自ら好き好んで手を出すほどじゃない」

それじゃあ、迫られたらお相手をしてやるという事だ。
しかも男なら自ら好き好んで手を出すのだ。
じとっとした視線で言いたい事を察したのか、藤堂さんはニヤッと笑ってからかった。

「お前にも嫉妬が芽生えたか。ん?」

大人だからって馬鹿にして、悔しい。

「僕を捜してたんじゃなかったのっ?ずっと僕一人を好きなんだと思ったのに…!」

むぅっとむくれて拗ねると、藤堂は喜んだ。
自分の事で感情的になるのが嬉しいらしい。

「それとこれとをごっちゃにすんな。本気じゃなくても性欲だけでできんだよ」

その理屈が僕にはわからない。
好きじゃなかったら体に触れてもらいたくないと僕なら思う。
ぴったりとくっついてる僕がそうボヤくと、藤堂さんは嬉しそうに笑った。

「ならお前は、俺とだけだな。安心しろ。初めっから突っ込みゃしない。俺のじゃお前血を見るからな。十分慣れさせてからしてや……どうした」

生々しい話をあまりにあけすけに言うものだから、こちらが恥ずかしくなって耳をぱたんと塞いだのだ。

「ぼ、僕はそういうの経験無いし、そういった会話にも混じらなかったけど…っ。それは関心が無かったからだよっ」

だからそこまで恥ずかしいと感じなかった。
それは他人を想う気持ちがあって、他人と接触できる種類の人のものだったからだ。
どこか自分に関係無い、隔たりのある世界のことを話してると思っていた。
けれど藤堂さんがぶち壊してくれて、心を目覚めさせてくれたので、己の事として現実的に考えられるようになってしまった。
藤堂さんはそれをケラケラ笑って面白がった。

「いいな。楽しみだ。実際に“する”となったらどんなに恥ずかしがるのか」
「やめてよ!言わないで!今好きって気持ちだけでもどうしたらいいかわからないのに!」

こちらは至って真面目なのに、言えば言うほど藤堂さんの機嫌をよくした。

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あきゅろす。
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