シリーズ・短篇
9
こてんと厚い胸に寄り掛かり息をととのえていると、上から声が降ってきた。
「確かにお前を意思も心も無いと言ったが、俺がいつお前をオモチャだと言った!お前は俺の“もの”だって言葉の意味を間違えるな!」
あれだけ恐ろしいと思ったのに、今はこの怒声がとても嬉しく感じられた。
「お前もどうせ俺が気に入ったオモチャを手に入れたくて駄々をこねてると思ったんだろ!お前はオモチャに恋をするのか!」
最初に思ったので間違ってなかったんだ。
最初から想ってくれていたんだ。
「お前を捜すためにどれだけ苦労したと思ってる!俺は、いつか飽きて捨てるオモチャのために父親に勘当してもらおうとは思わん!」
「どういう意味?」
ハッと顔を上げて、見つめる。
「勘当されたの?僕を欲しがったから?」
僕のせいで……と涙ぐむと、藤堂は苛立ちを引きずって否定した。
「父は議員で、弟はその後を継ぐ気だ。俺が男と連れ添ってると書かれて叩かれでもしたら、ジャマになるだろう。だから今の内に勘当してくれと頼みに行った」
連れ添うという表現に、そしてそこにある覚悟に、きゅんと胸が締め付けられる。
「だが『お前の色恋なんぞ知ったことか』とバッサリ斬られた。冷めた人でよかった。『俺とお前は別個のもので、俺には無関係だから好きにやれ』だとよ」
やっぱり、藤堂だって家族が大事なのだ。
迷惑をかけたくないと思い、勘当されなくて“よかった”と思うほどには。
だって、僕に人の心をくれた人なのだから。
「僕のために、あなたが一人にならないでよかった」
一人は楽なのではなく、とてもつらく寂しい事だと今ならわかる。
たくましい胸を撫でて告げる。
「好きです。だから……。あなたまで僕を一人にしないで。僕を放さないでください」
その時はきっと、残りの人生がとても虚しくなってしまうだろうから。
「お前は一生俺のもんだ」
火がついたら手がつけられないような人だから。
強引で、これほど執着してくれるような人だから、僕は動かされたのだと思う。
そう思ったら僕も聞いてみたくなった。
「どうして、僕を好きになってくれたんですか?」
嫌そうに顔をしかめたが、じっと見つめて期待していると、しぶしぶ教えてくれた。
「お前が鈴蘭みたいだったからだ。ちっこくて白くて、可愛くて」
藤堂の口で言われると嬉しくて、にやけてしまう。
それを見られるのが照れ臭くてぴったりとくっつくと、ぎゅっと抱き締めてくれた。
しかし、はたとその事実に気付く。
僕が料亭に居たのは幼稚園までだから、五、六才くらいだろう。
藤堂がどれほど上かわからないが、そんな小さな子供を好きになったのだろうか。
生まれた疑問をまた黙っていると叱られそうなので、素直にぶつけることにした。
「藤堂…さんは、僕のどれくらい上ですか?」
「お前今十九か。なら一回り上だ」
「えぇっ!?」
藤堂さんは苛ついて、じろりと睨んだ。
「何だ。今更文句をたれるな」
放してやらんからな。と念を押すが、そういうことで戸惑ったのではない。
だって僕が六才だとしても、一回り上だったら十八になるじゃないか。
「なら僕より、母の方を好きにならなかったですか?」
僕はそっくりだと言われたし。
探し当てた時に母が亡くなっていたから、代わりに僕に目をつけたと考えた方が余程自然に思う。
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