シリーズ・短篇 11 「ごめん、びっくりさせて。でも、水上に近づいたのは俺の方からだから、水上が責められるのは間違いだって言いたくて」 迷惑をかけたのは自分の方だと、人見君は頭を下げた。 「せっかく友達になれたのに、裏切ってごめん。気持ち悪かったら、もうそういう態度とらないから」 裏切るって何だろう。 どうして離れる方向に行くんだろう。 舞い上がったドキドキが、一気に崩れて落下していく。 「恐い思いさせてごめん」 何で。 どうして返事を聞く前に、人見君の方が謝っちゃうの? それは、恐らく。 僕が恐がってずっと逃げてきたからだ。 人と関わるのが恐くて、自分と向き合うのが恐くて。 逃げて、諦めて、目を瞑ってきた。 「僕達…っ、もう、一緒に居ちゃダメなの……?」 「水上が許してくれるなら、友達で居られるように頑張る。傷付けないように、迷惑かけないようにするから」 人見君とお友達になれて嬉しかった。 毎日がすごく楽しくなった。 なのに、もうそれでは嬉しいと思えなくなっている。 「女子もわかってくれると思う。俺の気持ちを察して応援してくれたから、今度も見守ってくれると思う」 好きって言ってくれて、嬉しいというこの気持ちを、どう言葉にすればいいのか。 「今は動揺してるだろうから、すぐに決めなくたっていいよ」 今勇気を出さなければ、もうあの笑顔は見られなくなる。 当然撫でてもくれなくなる。 すぐに言葉が出てこなかったので、戻ろうと言われる前に両手をのばして制服を掴む。 「……僕っ、裏切られたなんて、思ってない…!」 「……え?」 身を屈めた人見君の顔が、ぐっと近付く。 「先輩達の事は、びっくりして……恐かったけど……。でも、気持ち悪いって、思ったこと、ないっ」 赤面してるのをそんなに近くで見られたくないのに、人見君は、反らした顔を追いかけた。 「友達付き合いって、慣れてないから。僕……わからない事も、いっぱいあるけど……」 当然恋愛なんてもっとずっとわからないけど。 「でも、僕……。僕は、何にも知らない赤ちゃんじゃないっ。真剣な告白をされたら、わかるもん…!」 喋ってる内に涙が溢れてきてしまって、人見君の優しい指先がそれを拭ってくれた。 「うん。それで?」 とっても優しく微笑んで、息が届きそうなほど間近で囁く。 「僕にだって……。これが、他のドキドキと違うことくらい、わかるもん…!」 人見君は驚いて、破顔した。 「信じて?僕も、同じ。同じ『好き』だよ?」 どうして、見惚れる笑顔を浮かべているのに、何も言ってはくれないの? 「勘違いとか、嘘なんかじゃないよ?もう一回……言って?」 「何?何を?」 お願いしたら、ごまかさないで。 もう一回聞きたい。 「僕も、人見君が、好き……だから。お願い。もう一回。……もう一回、聞きたい。おねが…っ」 勢いよく抱き寄せられて、息が止まるかと思った。 人見君の大きな体だと、すっぽり胸に包まれてしまう。 「好きだ。好き。好きだよ、俺も。信じられない。そうなったらいいと願ってたけど、まさか本当に……。嬉しいよ」 告白だけでも心臓が爆発しそうなのに、抱き締めて頬をすり寄せられたら、頭がくらくらして倒れそうだ。 「後で『やっぱり違ったかも』ってのは無しだよ?もう放してあげないからね?」 「大丈夫。平気。人見君だけだよ?好きなのは。間違えない」 人見君はくすっと笑って、額にちゅっとキスをした。 しがみついてないと、本当に倒れてしまいそうだ。 「俺達が“どう”なったか、戻ったら女子にすぐバレるだろうね」 俺は気持ちを隠すのが下手みたいだから。と、人見君は笑った。 「僕、もしまた何か言われたって、平気だよ?頑張る。逃げないからね?人見君と、一緒に居るっ」 「そうだね。何を言われても関係ない。二人で頑張ろう」 大好きな人に包まれて、安心できる。 もう一人じゃなくなったから。 逃げないで頑張れる。 教室に戻ったら、女子にこっそり耳打ちで祝福された。 何が……とまでは言わなかったけれど、そこまで言わなくても意味がわかる。 僕達がもう一人じゃないという事を。 [*前へ] [戻る] |