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シリーズ・短篇
10
ひとまず顔を洗ってから、おいでと言われて引っ張っていかれたのは何故か演劇部の部室だった。
運動部の部室と違って校舎に近い場所にあり、隣には弓道場がある。
部室は開いていないので、正確には演劇部の部室と弓道場の間の狭い通路なのだが。
そこに押し込められるようにしてそこへ連れられ、そろりと顔色を窺う。

顔を洗った時にはいつもと同じ優しい人見君で、ハンドタオルを貸してくれたから、怒ってないのかな?と思ったが。
もう友達は終わりだと言われるんじゃないかとびくびくしていた。

「ごめんなさい」

恐くて、先に謝った。

「僕が……」

人見君はそうじゃないと先輩達に説明して庇ってくれてたけれど、申し訳なくて目の前から消えてしまいたかった。

「だから、それは違うんだよ。水上は何も悪くないから。とりあえず……恐がらないで?頼むから……」

いつまでも怯えられるのも気に障るかとハッとして、おずおず顔を上げる。
人見君は苦笑して、よかった。と呟いた。

「俺の話、聞いてくれる?」

終わりの覚悟はできてないけれど、頷いた。

「先輩達はね、水上が悪いから怒ってたわけじゃないんだよ。誤解してたんだ。俺のせいで……ごめん」
「だって、でも……僕が居るから」

人見君は違うとそれを否定して、先輩達に何を言われたのかと聞いた。

「僕が、こんな、ヘアピンをしてるから……。かわいこぶって、見えるから……その…………オカマ、だって……」

もごもごと告げて、一気に顔に熱が集まる。

「だから、人見君が、僕なんかと……って、勘違いされちゃったって。それで…っ」

せっかく顔を洗ったのに、また涙が込み上げた。
撫でてくれたところから、優しさが伝わる。

「俺が水上を好きなんだよ」

今発した言葉の意味が理解できなくて、目を丸くしてじっと見つめる。

「俺の方が水上のこと好きで、水上と仲良くなりたいと思ったから。だから俺から近づいたんだよ」

ぐるぐると混乱が続く。
これは自分に向けられてる言葉だろうか?

「最初に体育で誘ったの覚えてる?」

でもあれは、人見君が先生にバスケをやろうって言って、僕はついでだったはずだ。
頷きながら、疑問を抱く。

「あれね、先生が水上と居るのを見たからだよ。いきなり水上を誘っても避けられるんじゃないかと思って、自然に話し掛けるタイミングはないかなって考えてて」

知らなかった。
確かに人と目を合わさないようにしていたし、話し掛けられても恐がって避けてしまっていたから。

「プールで水上を見て、可愛い顔してるんだなぁって気付いて。だけどすぐうつむいたり、後ろを向いて逃げちゃうからなかなか見られなくて」

人見君はそれを思い出してくすっと笑った。

「気になってその後も見てた。こんな可愛い顔を出してるのに、何で皆気付かないのかなーって不思議で」

“可愛い顔”と、するりと額から頬を撫でられて、目が泳ぐ。

「気付いたらずっと水上を目で追ってて、どうやって話し掛けようか考えてた。それからどうやったら仲良くなれるのかな?って……。知らない内に、好きになってた。もしかしたら、一目惚れだったのかもしれない」

さっきまでの悲しい涙とは違う、胸がぎゅうっと締め付けられる様な、わからない涙が滲む。
お友達が終わらない安堵から?
それで、こんなに胸が苦しくなるの?

「水上が好きだ」

告白されたら、人は皆こんな気持ちになるのだろうか?
そうじゃない。
れみちゃん達や、他のどの女子や、男子に告白されたってこうはならない。
先輩達が気色悪いと言ったように、同性との恋愛というのは一般にそういう認識なのだろう。
けれど僕は、やっぱり人見君に見惚れて、その優しい眼差しを嬉しいと感じてしまう。
特別な人に告白されて初めて、人はきっとこんなにもドキドキするのだろう。
こんなに、泣けてしまうほど。

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あきゅろす。
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