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シリーズ・短篇

いつも人見君達と居るか、じゃなきゃ女子と一緒に居るから、もう学校で一人で居る事がなくなった。
といってもトイレぐらいは一人で行く。
そこでトイレから出てきたところを知らない女子に囲まれ、連れ出された。

険悪な空気が痛くて、自然と拳を握り締めていた。
一年の教室がある棟から隣の棟へ続く二階の渡り廊下で、壁に追い込まれる。
更に距離を詰められたら、恐怖でぎゅうっと体が強張る。

「ねぇ」

威圧的な声に、態度。
また一歩詰められて、反射的に両手を胸元に引っ込める。

「オカマなの?」

言ってる意味が、わからなかった。
けれども恐くて顔を上げられなくて、縮こまったまま動けない。
うんざりといった様に、溜息まじりに「ま〜たかわいこぶってる」と呟きが漏れる。
そんなつもりは一切ないのに。
可愛く見せようと思った事なんて無いし、そもそも誰かに媚びて自分を売り込もうと考えた事も無い。
それにちょっと自分を演出して見せたって、好意的に感じてもらえるとも思わない。
むしろ相手に不快感を与えると思ってる事をわざわざやるなんて、嫌がらせじゃないか。

「男のクセにヘアピンとかしてんじゃねーよ」
「それ、似合うと思ってやってるワケ?」

媚びてると誤解されたのは、このヘアピンのせいなのか。
だからオカマだと……?

「ぁ、こ、これは……ちがっ、違います……」

これは、クラスの女子達との友達の証だ。
自分を批判されるより、それを否定されたようで悲しくなった。

「違うじゃねーよっ」
「外せよ」

僕はただ、お友達に仲良くしてもらってただけだ。
なのに何故この人達の怒りを買い、掴みかかられるのかわからない。

「や…っ」

そんなに目障りなの?
それじゃあ僕は、どうすればよかったの?

「テメェのせいで人見君がバカにされんだろ!」
「お前が居るから他校の生徒に人見君がホモだって笑われんだよ!」
「なに図々しく応援なんか来てんだよ!身の程をわきまえろ!」

息が詰まって、うまく呼吸ができなくなりそうだ。

「変態の道に巻き込むんじゃねー!」
「気色悪ィんだよ!」

むしり取られたヘアピンが、廊下に投げ捨てられた。
恐怖で頭が真っ白で、涙が滲んで溢れる。

「何やってるんですか!?」

間に入ってかばってくれたのは、れみちゃん達クラスの女子だった。

「二年生が芳海君に何の用ですか!?」

そうかなとは思ったが、相手は先輩だったらしい。
敬語を使っていてよかった。と、こんな時に頭の隅でホッとする。

「そのオカマっぽい人のせいで人見君がホモってバカにされてるんですけど」
「ウチのバスケ部が他校から笑われてんの!」

先輩と言い合う女子の他にも、そっとヘアピンを拾ってきてくれる人が居たり、背中を撫でて慰めてくれる人が居たり。
髪をなおして、ヘアピンをつけ直してもくれた。

「人見君まで変態って思われたら最悪じゃん!巻き込まないでほしいんだよね」
「人の迷惑も考えてほしいわ」

僕はただ仲良くしてもらっただけだけれど、それが人見君に迷惑をかけていたなんてショックだった。
応援に行って、人見君が人気なのはわかった。
そんな人見君に迷惑をかけてるんだから、こんなに怒るのも無理ないかなぁ……と、思い始めていた。
人見君だけじゃなく、部活の人達の評判まで下げてしまうのかも。
もう人見君とお友達では居られなくなるんだろうと考えると、ますます悲しくて涙が止まらなかった。

先輩達の主張を聞いたれみちゃん達は、冷静に反論した。

「それで、芳海君が責められる理由がよくわからないんですけど」
「はぁ!?」

何を聞いていたんだと、それは怒りを煽った。

「あの、知らない人も居ますけど、ホモとかオカマって差別用語なんですよ。先輩達、今明らかに侮蔑の意味で使ってましたよね?」
「誰が笑ってるか知らないですけど、それ差別ですよ?何でそっちの方を怒らないで一緒に差別に加わるんですか?」

後輩に指摘され、先輩達は気まずそうに顔を見合わせた。

「私達は別に……誤解されてる人見君がかわいそうだから……」
「そういうの、多分お節介って言うんじゃないですか?」

先輩達はムッとしたけれど、何も言い返さなかった。

「本人達の問題だから、こういうのも迷惑だと思いますけど」
「人見のために先輩達が頑張っても、もう“望み”は無いですよ?」
「しかも人見にバレたら、逆に嫌われると……」


廊下には人が集まらなかったが、何やら揉めてるらしいと聞いた人達が教室から何か見えないかと渡り廊下の窓を窺っていた。
人見がそれを聞いたのは、部活の集まりから帰ってきた後だ。

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