シリーズ・短篇
7
試合は、クラスの女子に混ざって見た。
応援が沢山来ていて、人見君にも女の子からの声援が多い。
声が嗄れそうなほどきゃあきゃあ叫ぶのに圧倒されて、バスケ部の人達の人気は本当に凄いんだなぁと感心すらしてしまう。
「ほら、よしみんも負けないように応援しなよっ」
と言われても無理だ。
目の前でこんな熱狂的な人達を見てしまったら、いくら勇気を振り絞ったって敵わないと考えて、気付く。
何故、勝とうとしてるのか。
敵わなくって当然なのに。
そんな事今まで考えなかったのに。
人見君と目が合ったと感じたのは気のせいかな?
そう思うと同時につつかれたり叩かれたり、ぎゅうぎゅうと女子に押し潰された。
「ホラ見てるよ!」
「手振りなよ!よしみんに合図したんだよ!?」
確かに手を上げて笑ったけど、それが自分にだって自信がなかった。
いや、結局。またちょっと疑ってしまうのだ。
周りに女子が居るのだし、と。
「ガンバレって言いなよ!」
大声は出せないけど、頑張ってもどうせ沢山の声援に掻き消える。
だから控えめに手を振り返して、ぱくぱくと口を動かした。
がんばって。
見惚れそうな笑顔が浮かんだのを見て、伝わったのだと知る。
きょろきょろと顔を動かして様子を見ていた女子達は、きゃあきゃあはしゃいで喜んだ。
「よかったねー!よしみんだけに手振ってくれたんだよー!?」
「人見、よしみんのコトお気に入りだもんねぇ〜」
僕を見てくれた。
僕に手を振ってくれた。
僕だけに笑ってくれた。
僕はそう思うけれど、コンサートのファン心理みたいに、周りの女子だってそれが自分に向けてだと思わないんだろうか。
いつも僕と人見君の仲を気遣ってくれて、ありがたいけど、どうしてだろうと不安になるのだ。
やっぱり普通のお友達というよりは、弟とかペットみたいな感覚で見られているからなのかもしれない。
人付き合いも苦手だし、面倒をみてくれてるのかも。
試合後も「行ってきなよ!」と背中を押された。
渡すんだよ?と教えてもらったタオルを胸に抱え、いざ上級生の女子に囲まれる人見君のもとへ。
この人の壁をかき分ける自信は無いなぁと怯んでいると、人見君が僕を見つけて声を掛けてくれた。
「水上」
人見君から近付いてくれたので壁が割れたけれど、じろりと視線が向けられてぎゅっと畏縮する。
それを気遣ってくれたのか、人見君はするりと肩から腕を撫でて、そこから少し離れてくれた。
「あの、おめでとう。お疲れ様」
勝ったのが嬉しくて、つい頬もゆるむ。
「ありがとう。水上の前で情けない姿を見せなくて済んでよかった」
例え負けていても、情けないなんて思わないだろう。
いつも優しくてにこやかな人見君の、真剣な姿はとてもかっこいいから。
「で、それは?くれないの?」
くすりと笑って指されて、はたと思い出す。
「あっ、そうだ。はいっ」
タオルは自分で家から持ってきたものだ。
女子にそうした方が喜ぶはずだとアドバイスしてもらったのだ。
「すごかったねっ。僕、運動部に入ったことないから、こういう試合って見たの初めてで」
「楽しかった?」
興奮気味に喋るのを人見君はくすりと笑ったけど、それが揶揄されたとはもう思わない。
それこそペットに向ける様な、愛情みたいなものを感じられるから。
「応援の人がいっぱいで、びっくりした。けど、皆すごく、かっこよかったから。だから人気なんだなぁってわかった」
「俺もそのかっこいい内に入れた?」
当たり前の事を聞かれて、きょとんとしてしまった。
そしてこくこくと何度も頷いた。
「いつもの、笑ってる、優しい人見君もかっこいいけど、試合の時もすごくかっこよかった」
自分には無いものとしっかり自覚しているから、それを素直に称賛できる。
「もし負けてても、僕、がっかりしないよ?だって、どっちだって、人見君はかっこいいと思うもん」
ありがとうと言った人見君は、少し照れていた。
れみちゃん達が人見君を応援しに来るのもわかる。と、クラスの女子を差して言ったら、人見君はえ?と驚いた。
「皆は俺の応援に来たんじゃないよ。どっちかといったら、水上の応援じゃないかな」
意味がわからなくて、どういう事?と首を傾げる。
「付き添いって事。別に俺を見に来た訳じゃなくて、水上がちゃんと応援できるか心配で着いてきたんだよ」
そうだろうから聞いてみな?と言われたので後で聞いてみたら、人見君の言う通りだった。
私達は人見のコト“そういう”目で見てないからね!?と。
人見君がどうこうじゃなく、本当に僕を心配して着いてきてくれたらしい。
そんなの当たり前でしょ!と、言ってくれた。
友達なんだから、と。
だからなんだと納得できた。
だから皆、僕に色々と教えてくれたのだ。
お友達だから。
それがとっても嬉しかった。
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