シリーズ・短篇
6
背が違うから足の長さも違って当然だが、それでも人見君は足が長くてスタイルがいい。
だから一緒に歩くとちょこちょこと早足で歩かなきゃならない。
人見君も合わせてゆっくり歩いてくれるけれど、コンパスの差は大きい。
見上げるとにこっと笑ってくれるのが安心するし、おっきな手で撫でてくれるのが嬉しい。
刷り込みみたいにいつもくっついて、何かと甘えて頼ってしまうのも、鬱陶しがらずに付き合ってくれる。
申し訳ないと思ってごめんね?と言ったら、人見君はムッとして、遠慮するなと言ってくれた。
最初から、恐がる僕に声を掛けたのは人見君だから、と。
バスケ部が他校との練習試合をするという情報は、人見君からではなくクラスの女子から知らされた。
絶対行くよね!?と嬉しそうに言うから、やっぱり人見君は人気なんだなぁと実感した。
「僕、いいのかな……?」
何だか気が引ける。
優しくて、かっこよくて、人気がある人見君の友達が僕だなんて思われたら、人見君が恥をかくかもしれない。
「まだ、人見君から何も言われてないのに……」
「だーいじょぶだよ!よしみんが行ったら喜ぶよ!」
名前の芳海(よしみ)から、女子に「よっしー」「よしみん」と呼ばれはじめ、男子の間でもそう呼ばれるようになった。
時々名字からとって「みなちゃん」と呼ぶ男子も中には居る。
「よしみんが人見にガンバレー!って言ったらもう最強だよ!」
「きっと試合勝っちゃうよ!?」
そうかな。
それほど喜んでくれるかはわからないけど、少しは嬉しいと思ってくれるだろうか。
人見君が部活の用事から戻ってきたのに気付くと、女子はさぁっと散っていった。
その際にこそっとガッツポーズをしたり、小声で励ましてくれたりした。
誘ってくれなくても、行っていい?って聞いたら絶対オッケーしてくれるよ、と。
そう言われると変に意識してしまって、態度がぎこちなくなる。
「ん?」
案の定。おかしいと気付かれて、顔を背けても回り込んで覗かれる。
首を振って何でもないと訴えてるのに、その笑顔は明らかに面白がっている。
「やめてよぅ」
恥ずかしくなってうつむいたらうつむいたで、今度は下から覗きこむ。
「んー…っ」
耐えられずに顔を覆って、やっとくすくす笑いで解放された。
「ごめんごめん。何か言いたそうだったから」
「あの……部活の事……」
何て切り出したらいいだろう。
練習試合あるの?なんて言ったら回りくどくてわざとらしく聞こえるかな?とか。
応援に行っていい?って聞いたら、本当は嫌なのに優しいからいいよって言うんじゃないかな?とか、ネガティブな方向にぐるぐる考えて言葉が見つからない。
すると人見君は先回りして、言いたい事を見つけてくれた。
「あぁ。もしかして、試合の事?」
ちらっと窺うと、そこには穏やかな笑みがあった。
「来る?」
優しい嘘をつくんじゃないかと、少しでも思ってしまったのがバカだった。
迷惑かな?なんて、考えなくていいと言われたのに。
「うん」
こういうお友達との付き合いが照れ臭い以上に、皆に好かれる人見君が僕なんかを誘ってくれるという事がとても嬉しかった。
だらしなく溢れる笑みを我慢できない。
「何だか、僕まで緊張する」
人見君はふっと笑って、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
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