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シリーズ・短篇

平気だよと慰められ、僕は人見君を信じる事にした。
それに、クラスの人達が意地悪をするんじゃないかという恐れは、つまり僕は皆をそんな人間だと思ってるという事だ。
“イジメたりしない”と人見君に言われて、その事実に気付く。
臆病で情けない上に、人を悪者にして逃げる口実を作るなんて、自分が最低だと思った。

こくりと頷くと、人見君は頭を撫でる様にして手櫛で髪をとかしてくれた。
毛先でつついたりしないようにぎゅっと目を瞑って、額が露出するとそろっと開ける。
恐がってうつむいてたから、女子が側まで見に来てるとは思わなくて思わずびくっと肩が跳ねる。

うわぁっという驚きと、きゃあっという悲鳴。
大丈夫って言ったのに、やっぱり気味悪がられたんだ!と恐くなって視線から逃げてうつむく。
が、そろっと伸びた指があごを捕らえて、くっと顔を上げさせられた。
緊張、恐怖、羞恥でひゅっと呼吸が苦しくなる。
硬直して、瞬きを一つ、二つ。
すると。

「いーなぁー!すっごいぱっちり二重ー!」
「かわいーじゃーん!何で隠してたのー!?」
「全然隠さない方がいいよー!」

そんなバカな!と、あり得ない展開に戸惑う。
受け入れてくれた女子達は、僕を子供か動物の様な感覚で見ているのだと思う。
何故なら途端にヘアピンない!?くし貸して!などと言い出し、数人がかりで髪をいじり始めたからだ。

「かわいくしてあげよー?」
「するなら可愛いピンがいいよぉ。絶対似合う!」

困っておろおろするしかない。
僕だって一応男なのだから、パールピンクのヘアピンで前髪をとめられたって似合う訳がない。
なのに男子まで女子の意見に賛同はするし、更に変わった感想を言い合う。

「なるほど。顔が可愛いってわかったらこの小ささと細さが許せるな。っていうか納得だな」
「最早オレこの怯えてる感じすら可愛いわ」

やはり、小動物系だという言葉が出る。

「アレだな。ぶりっ子とかあざとい感じじゃないから許せるんだな」
「そうか、狙ってないからか」
「何だろう……?このちっちゃさとかビクビクしてるのとか、喋り方がたどたどしいのとか……総合力だな。この可愛さを演出してんのは」

あわあわしている内に出来上がり、かわいー!と女子達の拍手が起こる。
強張ってぎゅっと握りしめた手で熱い頬を押さえ、スースーする額を隠す。

「ほら、な?平気だろ?」

こうなる事を知ってたみたいに、人見君はにっと笑った。

「でも…っ、はっ、恥ずかしぃ……」
「似合ってるよ?可愛い」

こめかみのところを指して、人見君は微笑む。
ピンクのヘアピンが似合っててもどっちでもいい。
いや、似合ってる方がもっと恥ずかしい。

「こ、これ……とりたい……」

とっちゃダメ?と勇気を出して女子に窺ったのに、ダメー。とあっさり却下される。

「前髪長いと目が悪くなっちゃうよ?」
「そうだよ。そのピンあげるから、しなよ!ねっ」

せっかくの親切を、怯えて自らぶち壊したくない。
ヘアピンをするのは不本意だけれど、話し掛けて構ってくれるのは素直に嬉しい。
ちょっとの勇気を出して、逃げずに頑張ってみれば、少しは嫌な自分を変えられるかもしれない。

「ぁ、ありがとう……」


この事をきっかけに、クラスの人達とも少しずつ話せるようになった。
ヘアピンは登校すると必ず、女子が持ち寄った物の中から選んでつけられるのが恒例になった。
そのまま教室の移動なんかもするから指を差されることもあって、その度に恐がるのを人見君が慰めてくれた。
大丈夫。可愛いよ、と。
いつもの様に身を屈め、顔を覗きこんで。

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