シリーズ・短篇
4
「何で?女子にだって羨ましがられると思うよ?自慢になるよ」
手を放してくれたので急いで髪をなおして隠して、ぶんぶん首を振って断る。
「いや、なの……」
目が大きいねとよく言われた。
人見君が言う通り、女の人に羨ましいとも言われた。
「目が、おっこちそうねって。手で、こうして……」
“こう”と、目の下に手を持ってくる。
「こぼれちゃいそうって、言われた……」
悪意は無いと理解できた。
けれど、遊ばれたようなからかわれたような、ショックを受けたのだ。
「冗談で、でしょ?羨ましかったんだよ。だって目を引くし。その人も悪気は無かったんじゃない?」
わかってる。
わかってるけど、幼かったし、人に目の事ばかり言われていたから敏感になっていたのだと思う。
「うん……。だけど、びっくりして……」
そのくらいで、って思う。
だけど。
「何か……悲しくなっちゃって……」
膝の上で、指先を落ち着きなくくるくる絡める。
「それで気にして今まで隠してたの?」
もったいないと呟く言葉は、とても優しく穏やかに届いた。
人が苦手であがり症なのは元からだと思ってたけれど、幼い頃のそれが更に苦手意識を植えつけたのかもしれない。
「自信持ちなよ、って……俺が言ってもしょうがないと思うけど。全然気にしなくて大丈夫だよ?」
人見君の言葉がお愛想に聞こえないのは、その人柄のせいだと思う。
穿った見方をせず、卑屈にもならず、素直に言葉のまま聞ける。
だから素直に、ありがとうも出てくる。
それから人見君はお昼も誘ってくれて、体育でも混ぜてくれたお友達と机を寄せて一緒に食べた。
皆が会話に混ぜようと沢山話し掛けてくれるのに、うまく答えられなくて焦る。
それがまた動揺を呼ぶという悪循環。
「ご、ごめん、なさぃ……。僕、話すの、苦手で……」
羞恥で目が潤み、熱くなった頬を手で押さえる。
「じゃあほら、必殺技いこうよ!」
その提案は応援でもフォローでもなく、ぼけっとしている隙の行動はただパニックを招くだけだ。
人見君が隣から手を伸ばし、前髪をわけてしまったから。
「やっ、いやだぁ…!やだよ、放してっ」
人見君の手を叩いてしまったのが気になったけれど、それよりも急いで髪をなおす。
「どうして…っ」
嫌だって話したのに。
そりゃあ事前に言われていたって心の準備など到底できず、心が決まらないだろうけれども。
それでも苦手だって言った事を不意打ちでするなんて、心臓に悪すぎた。
恥ずかしいし、恐いし、動揺して涙が溢れそうだ。
「うわっ、何今の…!」
「もっかいもっかい!」
面白がってからかわれるんじゃないかって恐くて、うつむいてぎゅうっと体を強張らせる。
「なっ!?可愛いだろ!?」
そう言ってくれるのは人見君だけだ。
そう思ったのに、まさかの同意が返ってきた。
「目ぇ、でっか!」
「何その漫画みたいな展開!今めっちゃ可愛い顔出てきたけど!」
「メガネ取ったら美人、脱いだら巨乳みたいな!」
驚きの声は関心を引き、何々?とクラスの視線を集めだす。
人見君はまた顔を覗きこんで、な?と微笑んだ。
「隠すことじゃないって。大丈夫だよ、誰もイジメたりしないから」
どうしたらいいかわからなくて、髪を押さえながら小声で人見君にすがる。
「でもっ、でも……恐い……」
怯えてる間にもお友達が話して広がっていく。
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