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シリーズ・短篇

皆とコンパスが違う上、バスケ部員も居る中に混じったら途中でバテるのは当然だ。
邪魔にならないように端に座って見ていると、気を使ってくれたのか、人見君も休憩と言ってわざわざ隣に来てくれた。

「あー、疲れたぁ」

当たり前の様に。
それが嬉しかった。

「ぁ、ご、ごめん…ね?せっかく、混ぜてくれたのに……」

人見君は「え?」と、身を屈めて顔を覗きこんだ。
咄嗟に前髪を撫で付けて顔を隠す。

「僕、どんくさいから……」

皆も内心では苛立ったかもしれない。

「でも、一生懸命やってたじゃん。大丈夫だよ。皆もわかってるって」

心の中まで読んで言ってくれたんじゃないかと思うほど、それは安心するセリフだった。

「プールの時も、最後青い顔して休んでたの見てるし。そのくらいで怒ったりしないって」

よかった。
迷惑をかけなかった。
不快にさせなかった。
ホッとして、何度もこくこく頷いた。
もっとうまく話せれば、言葉にして感謝を伝えられるのに。

「水上って太らない体質?昼飯普通の量食ってたよね?それでそんな細いの?」

教室で一人で弁当を食べてるから、変だと思って見られていても当然だろうから、何も疑問は抱かなかった。
こくりと頷くと、肩や腕を触られてまた硬直する。

「何ていうか、ガリガリっていうんじゃなくってさ。華奢って感じだよね、つくりが」

男に対してそれが褒めてることになるのかは疑問だが、そう受けとってしまうのは、それが人見君の気遣いだと感じるからだ。
グズで臆病で、貧弱な奴だからだと思う。
冗談にして笑う方向に行くと気付かずに真面目に受け取ってしまいがちなので、冗談が通じなくてつまらないと空気を壊す事になる。
わずらわしいと避けたりせず、根気強く会話に付き合ってくれている時点で気が長くてとても親切だし、ありがたかった。
だからだ。
自分からも勇気を出してお返しせねばと思った。

「ぼ、僕は……人見君が羨ましい……」

何で?と聞きながら、顔を覗きこむのはやめてほしい。
緊張して喋れなくなる。
けれどそれは自分がぼそぼそ小声で喋るせいだから仕方ない。

「背が、おっきくて……筋肉もあるし……。男らしい、から……いいなぁって……思う」

本当に同級生か?ってくらい、体のつくりが全然違うのだ。

「でも水上はいいよ、そのままで。華奢で可愛い方が、繊細で思慮深い感じに合ってるよ?」

びっくりして、うっかりまともに目を合わせてしまったのは、癖でからかわれたのかとびくついてしまったからだ。
そんな表現をされた覚えがないから気恥ずかしい。
よくても引っ込み思案とか遠慮がちとか、そう評価されてきたから。
反射的に目を反らした後、髪に何かが触れたと思う間も無く、額に指先が触れてさっと視界が開ける。

「あ、やっぱり。この方がいいよ」

左右に前髪が流されて、そのまま両手で頭を固定されて逃れようがない。
またびっくりして目を丸くする。

「プールで見た時に思ったんだ。目がくりっとしてて、小動物みたいだよね」

途端に頬が紅潮し、羞恥で目がじわりと潤む。

「ゃ、や…っ。やだ…!」

目を隠そうとして人見君の腕に手をぶつけ、尚更焦る。

「何で?可愛いのに。絶対見せた方がいいよ」

可愛いなんて言葉は、大人のお愛想の中でしか聞かない表現だ。

「ぃや、やだっ。目が、やなの…!」

他人からすると何でそんな事が?という些細な事が、コンプレックスだったりする。
僕は、自分の目があまり好きになれなかった。

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