シリーズ・短篇
2
自業自得とはいえ、一人でボール遊びは惨めだ。
いや、惨めなのはまだいい。
さすがにちょっと寂しい。
そう思っていると、始めの合図の後ですぐに先生にちょいちょいと手招きされた。
「みーなっかみ〜ぃ」
分厚い両手が肩に乗り、ずしんと重みがかかる。
先生は明るくて面白い、人気のある人だ。
こんな自分も気にかけて構ってくれる。
「先生と遊ぶかぁ?ん?何して遊ぶ」
「え……あ、でも……」
もごもごと、うつむいて口ごもる。
手がかかる、面倒な生徒だろうと思う。
けれど先生は、何だ?と付き合って聞いてくれる。
だから言葉を我慢せず、拙くたって言う気が起きる。
「だ、だって……。先生、他の、人と……。人気だから……さそっ、誘われる、かも、しれないし……」
「そん時は一緒にやればいいじゃん。先生が言ってやるから。水上も一緒でいいか?って」
そうなったら邪魔なのがついてきたと思うかもしれない。
先生が僕の面倒をみてくれてるから、先生を誘いたくても誘えない人も居るかもしれない。
恐くて嫌だと遠慮したくても、混ぜてもらう側が断るなんて生意気だと思われるだろうし、先生の気遣いまで撥ね付けるようで申し訳ない。
イエスともノーとも返事できなくて、困って固まる。
心中はパニックで、目がぐるぐる泳ぎ、頬が紅潮するのがわかる。
落ち着こうと指先をもじもじ絡める。
「先生ー!バスケやろー?」
びくりと肩が跳ねたのが、先生に伝わってしまった。
僕が一緒に居るのがわかっているはずなのに、僕までついてくるリスクを考えて先生に声を掛けたのだろうか。
それとも最初からアイツは嫌だと断るつもりで誘ったのか。
瞬時にネガティブな思考が駆け巡り、ますます体が強張る。
「大丈夫だって。水上からしたら人見はがたいがおっきくてちょっと迫力あっかもしんないけど、優しい親切なヤツだから」
ボールを持って駆け寄ってきた人見君に、先生は「な?」と明るく言う。
ただでさえいい印象なんて持たれてないだろうに、生意気にも恐がって嫌がっているなんて思われたら更に印象がよろしくない。
恥ずかしくなって、まともに顔が上げられない。
「爽やかなスポーツマンだもんな!」
「はい?」
先生がおどけて言うと、人見君も笑いながら聞き返す。
「水上にしたらお前は怪獣みたいにでっかいけど、そんな恐くないよーって話」
すると人見君はハハッと笑って、大丈夫大丈夫と気にせずに誘ってくれた。
「一緒にやろ。バスケ得意?」
せっかく優しく話し掛けてもらってるので、頑張ってチラッと見上げた顔はだいぶ上にある。
ふるふると首を振らねばならないのが申し訳ない。
「運動、あんまり得意じゃ……」
体力的に、同級生の男子にはいつも敵わなかった。
着いていこうとむきになっても倒れてしまったりして、どうしても元から持ってるものから違うらしい。
「じゃあ、ちょっとずつ練習しながらやろ。俺バスケ部だから、教える」
「あっ、ありがとう……」
人見君のお友達まで僕のレベルに合わせてくれて、嬉しさと申し訳なさでいっぱいだった。
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