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シリーズ・短篇

「俺は、どうすればいい?もっと楽になりたいって、思ったらいけないのか……?毎週こんな思いをしなきゃ、朝霞を繋ぎ止めておけないのか?」
「それは、本気ですか?我慢してる自分に酔って、その状況に悦んでるんじゃなくて?」

やっぱりわかってくれてなかったのだ。

「俺だって何度も言ってる!お前が…!朝霞が好きだって何度も言ってるじゃないか!?俺はお前が好きだって言ってくれるから我慢してるのに!好きで虐げられて悦んでるわけじゃない!」

手を撥ね付け、肩を突き飛ばして離れる。

「いいよ!俺がお前を好きになった振りして、問題を解決してもらおうって企んでるんならそれでいい!お前はそれでも俺に頼られた事が満足なんだろ!?ならそれでいいじゃないか!俺は……お前の事なんて好きじゃなくったって構わない!これはお前が望んだ、招いた事だからな!」

息を乱し、悔しくて拳を握り締める。
何でこんな奴を好きになってしまったのか。

「バカだった……。お前なんかを好きになった俺がバカだったんだ」

異常なストーカーを好きになる方も、異常だったのかもしれない。

「もうお前の言う事は聞かない。こんなに言っても、お前には届かないんだから……」

忘れよう。
これは少し精神的に追い詰められていて、おかしくなってしまっただけだったんだ。

「少しでも期待した自分が悔しい……。帰ってくれ」
「ミナミさん」

陽は朝霞の顔を見なかった。

「ストーカーは、自分で何とかする。お前だって、こうして自分で何とかしたんだから」
「ミナミさん」

さっきまで好きだと言って、朝霞に口づけをねだっていたのに。
もう立場は逆転し、再び陽の心は閉ざされてしまった。

「ミナミさん…!」

陽はもう返事もしなかった。
やっぱり、屈折した愛情に応え続けるのは耐えられない。
酷い仕打ちを受けるのは、家族だけで十分だ。

わかった振りをして、家族の事を持ち出したくせに。
本当にわかってるならこんな事はしない。
それが“普通”の愛情じゃないのか。

陽はぺたんと座り込んで、ぽたぽたと涙を流した。

「どうしていつも…っ。いつも俺を憎むんだ……」

憎まれて、暴力を受けて、だけど家族だから、少なくとも愛情はあるって信じてきた。

「いつもそうだ。信じるとバカを見る。実の親にだって無かったんだから……他の何処にもあるわけないのに…!」

きっと、嗜虐心を煽る何かが自分にはあるのかもしれない。
満たされない思いを嗅ぎ付けられるのかもしれない。

陽は冷たいフローリングに横たわり、絶望の中で涙を流し続けた。
朝霞に名前を呼ばれても、触れられても一切反応しなかった。

「ミナミさん……。ミナミさん」

いくら呼んでも、虚空に漂う視線は朝霞を見ようとはしない。

「すいません。疑って、穿った見方をしすぎたんです……。だって、貴方はずっと俺を嫌ってたじゃないですか……。急に好きになってくれるわけがないって思うでしょう?貴方は潔癖だから。俺を絶対に許さないでしょう?」

本当に壊してしまったのか。
朝霞は焦って、ぴたぴたと陽の頬を叩いた。

「演技でも嬉しいなんて思っておいて、本当はすごく不満だった。好きにはなってもらえないって思ったら悔しくて。ミナミさん?ごめんなさい。許してください」

今更遅いのかもしれないが。

「もう、ストーカーはやめます。本当です。卑屈な、残酷な、ストーカーの考えは改めますから……。ごめんなさい。だから起きて。俺を見てください」

こうなってからやっと信じるなんて、バカなのは自分だと朝霞は後悔した。

「ごめんなさい、ミナミさん。疑ってごめんなさい。ストーカーの俺なんか、最初から貴方には好かれるわけがないって何処かで思ってました。ごめんなさい。何度でも謝りますから」

頬を優しく拭って、顔にかかる髪を横によけてやる。

「ミナミさん。お願いします。好きにはなってもらえなくても、貴方を屈服させて支配なら出来ると思ったのが間違いでした。ごめんなさい」

好きになってもらえたのに、自らの手でぶち壊してしまった。

「俺がバカでした。貴方を信じなかった俺が。お願いします。お願いします。起きて。許してください」

朝霞は反応しない陽を抱えてソファーに運び、ひたすら語りかけ、謝り続けた。

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