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シリーズ・短篇
13
お話したいと本郷に連絡すると、仕事が終わってから店に寄ってくれる事になった。
成実はその前に藤巻と会って一連の事を話そうと思ったのだが、顔を見るなり藤巻に頭を下げられてしまった。

「ごめんなさい!お兄さんとの事は隠すつもりはなかったんですけど、陽士さんがまだ言わなくていいって。陽士さんも月原さんにはカミングアウトしてないからって……」
「それは!いいんです。僕、最初はびっくりしたけど……。でも、嬉しかったんです」

申し訳なさそうに小さくなる藤巻に、成実はにっこりと微笑んで言った。

「だって、お兄ちゃんのお店から来る人の中で、僕、藤巻さんが一番好きでしたから。あっ。しぃっ、ですよ?」

少し声を抑えてそう言うと、成実は口元で人差し指を立てた。
藤巻は、そんな可愛らしい成実がますます可愛くなった。


「絶対大丈夫ですよ!本郷さんは絶対月原さんが好きです!陽士さんの言う通り、ちゃんと説明すればわかってくれますっ。それに、月原さんはこーんなに可愛いんですから!ちょっとくらい拗ねてたって告白されたら有頂天ですよ!だから自信を持って!ねっ!?」

興奮して両手を振りながら喋る藤巻が、前より可愛らしく見えたのは気のせいではない。
カミングアウトして気がゆるみ、心を開いた証だった。


本郷は、閉店間際に店に訪れた。
藤巻は店を閉めると、二人の為にお茶を出して裏に引っ込んだ。

最初に口を開いたのは本郷だった。

「こないだはすみません、いきなり。びっくりさせちゃいましたね」

成実は首を振ったが、緊張してなかなか言葉が出てこない。

「あの時は忘れてくださいって言いましたけど、でも、嘘じゃないですから。本気ですから」

忘れてほしいという言葉を撤回されて、成実は頬を染めながらもホッとしていた。

「道で初めて月原さんに会った時よりもずっと前から、この店の窓辺に居る月原さんを見ていて……。ずっと好きだったんです」

今度は成実が告白しようと思っていたのに、二回目もまた本郷から告白されてしまった。

「僕の気持ちは変わりません。月原さんが嫌なら諦めようって思いましたけど、やっぱり……好きなんです!忘れてお友達に戻る事も、このままお別れするのも嫌です。勝手ですけど、もう一度僕にチャンスをくれませんか?月原さんに好きだって思ってもらえるように、僕頑張りますから!」
「あの…っ」
「月原さんに認めてもらえるような男になりますから!月原さんを幸せに出来るように!僕、月原さんのためなら……月原さんに好きになってもらえるんなら…!だから!」

熱烈な告白に、成実は赤面して視界が潤みはじめた。

「月原さん。……僕と、お付き合いしてください!」

嬉しいのに、涙ばかりが出て言葉が出ない。

「僕…っ」

本郷が悲しげに眉を寄せたのを見た成実はハッとした。
また同じ失敗を繰り返すと思ったら恐くなった。

「僕……」

ぐいっと涙を拭いて、お兄ちゃんや藤巻さんの顔を思い出して勇気を振り絞る。

「僕…も……」

僕も。
僕も、本当は。

「僕も、本郷さんが……。本郷さんのこと、好き……です…っ」

本郷は、目を丸くして成実を見返した。

「ごめんなさい。僕、びっくりしちゃって……。本郷さんに告白されて嬉しかったのに、どうしたらいいかわからなくなって……。思わず、ごめんなさいって言っちゃって」

今度は悲しくなって涙が滲む。

「だから、忘れてくださいって言われたのがショックで。諦めるって言われて、すごく後悔して」

だって。

「だって…っ。本郷さんが好きなのに…っ。僕……僕、本郷さんが初めて助けてくれた時から、すごく優しくて、僕の事を理解してくれる人だって、嬉しかった」

いつも馬鹿にしないで、笑わないで信じてくれた。
頑張ってますねって褒めてくれて、僕も頑張りますって言ってくれた。
沢山のものをもらってるって、好きですって言ってくれた。

「かっこいい大人の人で、憧れたし。本郷さんと居るとドキドキして、どんな景色を見せてくれるんだろう?ってわくわくして。いつの間にか好きになってて……」

照れて上目遣いになる成実を、本郷はやっぱり可愛いチワワだと思った。

「それじゃあ……」
「……はい」

二人は微笑み合い、よろしくお願いしますなんて言ってお互いにお辞儀をしあった。
そしてくすりと笑って、すっかり冷えたお茶を飲んだ。

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あきゅろす。
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