シリーズ・短篇 12 陽士は気付いた。 成実が、友達を失う事を恐れてるんじゃないって事を。 「そうか。本郷さんが、好きなんだ……?」 とても穏やかなお兄ちゃんの優しい声色で、安心させるように語りかけた。 すると成実は驚いてパッと目を合わせた。 「驚かないの?変だと思わない?気持ち悪いって思わない?」 不安げに聞く成実に苦笑して、陽士は腹をくくった。 「俺、成実にずっと内緒にしてた事があるんだ」 成実はきょとんとして、何?と首を傾げた。 「もうずっと前に叔父さんと叔母さんには言ってある。俺なんかが成実のそばに居ていいのかって、聞きたかったから。俺が成実を弟のように思ってて、面倒を見てやりたいって思ってても、叔父さん達は気持ち悪いと思うかもしれない」 成実の瞳が揺れる。 「成実に悪影響だって反対されると思ったけど、叔父さん達は理解してくれた。だから今も成実のそばに居られる」 「お、お兄ちゃ……」 「俺ね。今、藤巻と付き合ってるんだ」 成実は何度もその言葉を反芻して、じわじわと理解するほどに頬を染めた。 「藤巻とは告白されて付き合ったんだけど、俺はもともと同性しか好きになれない人間だったんだよ。どう?成実は俺が嫌いになった?気持ち悪いって思った?」 ゆるゆると、真っ赤になりながら首を振る。 「じゃあ、どうして俺が成実を嫌いになる訳がある。俺はずっと、昔から成実の味方だろ?」 「うん…っ」 成実は陽士の愛情を疑い、変か?なんて聞いた事を後悔した。 「成実が車イスになって落ち込んでた時、俺、正直成実に自分を重ねてた。形は違うけど、同じくハンディを背負ってるって、勝手に……。今思えば失礼だったって反省してる。けど、その時の俺は救われたんだ。だから成実を支えてあげたいって思った。成実にも幸せになってほしいって思ったから」 本郷さんの言った通りだと、成実は思った。 「僕でも、誰かのためになってるんだ……」 成実も、陽士の言葉で救われた気がした。 そして思いを吐露し始めた。 「僕、わからなかった……。告白されるまで、お友達だと思ってた」 会うのが楽しみで、いつもドキドキして、知らない景色を見せてくれる事にわくわくしていた。 優しくて、尊敬出来る大人の人だと思った。 「だけど『忘れてください』って言われた時、すごく悲しくて……。残念に思って……。お友達でもなくなっちゃうのはもっと嫌だ」 告白されて嬉しかった。 嬉しかったのに、舞い上がってつい謝ってしまったのだ。 「それじゃあ、今度は成実が告白する番だな」 「えっ!」 「大丈夫だって。もう告白されてんだから、思いきって言うだけで受け止めてくれるよ」 でも……と躊躇う成実の背中を押すのを、成実の両親がどう思うだろうと陽士は考えた。 陽士は理解してもらえたが、いざ我が子がそうなると違うかもしれないから。 しかし陽士はそうなっても成実の味方で居るつもりだ。 「本郷さんはいい人だろ?びっくりしちゃったんだって、ちゃんと説明すればわかってくれると思うけど。どうだ?」 「……うん。多分」 励まされるって、言ってくれた。 沢山のものをもらってるって言ってくれた。 「大丈夫だ。成実は可愛いんだから。素直な気持ちを、成実の言葉で本郷さんに伝えれば、絶対受け止めてくれるよ」 照れる成実を見て、陽士は恋人の言葉を思い出し吹き出した。 「藤巻がさ、初めて本郷さんと会った頃に言ってたよ。『本郷さんが月原さんを好きみたいだけど、それって自分がゲイだからそう見えるのかな?』って」 「ほっ、本当!?」 成実の事でどうしよう!と慌てる姿が可笑しくて、それ以上にとても嬉しかったのだ。 「お前が本郷さんをただの友達だって思ってたら、バレた時に傷付くかな?って。心配してた。せっかく出来た友達だからな」 陽士も、それを心配していた。 「だけどお前も本郷さんが好きなんだろ?お前が幸せになれば、あいつもよかったって喜んでくれると思うよ」 成実は、小さくこくりと頷いた。 そして、藤巻さんとも沢山喋りたいと思った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |