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シリーズ・短篇

適当にある物でご飯を食べて、歯ブラシを買いに出掛けた。
戻ってぼんやり眺めていたニュースでストーカー殺人の事件見て、恐くなってテレビを消した。
歯ブラシが無くなったばかりだから尚更恐い。

あの人に聞きたいけどまた怒ったら恐いから聞けないし、もし違った場合、他にも侵入者が居る可能性も出てくる。
だけどそう何人も一人のところにストーカーが侵入するものか?
やっぱり少し敏感になっているから、ただ無くしただけなのに盗まれたと勘違いしてしまったのかも。

そう納得しかけて、よぎる希望。

もし。
もしあの人が、他の誰かが盗んだと思わせて恐がらせようとわざと盗んだんなら。
頼ってもらえるのが嬉しいと言っていたし、あの人の期待通りの“言葉”を言えなかったから、それくらいするかも。

しかしふと我に返って、己の思考に呆れ自嘲する。

自惚れている。
そんな事を思ってくれるとは限らないのに。

また、期待しているのだ。
そして懲りずにまた涙ぐむ。
自分がこんなに情けないとは思わなかった。


それから数日、あの人は一切現れなかった。
しかしそれは仕事からの帰り、暗い夜道だった。
つけられてる気がして、ゾッとして振り返った。
あの人かな?とか、やっぱりお仕置きで恐がらせようとしてるんじゃ?とか思ってその考えを振り切った。

不安な日々はそれからも続いて、部屋の物が動いてたり後をつけられたりした。
須崎さんや高見さんに聞かれても大丈夫だなんて平気な振りをしてしまうのは、きっとまだ期待をしているからだと思う。

あの人はもう、このまま目の前に現れないかもしれない。
そう思い始めた時だった。
突然現れたのは。


後をつける気配を感じて「またか……」と溜息をついた夜道。
背後から走ってくる音を聞いて、咄嗟に壁に背を向けて振り返った。
が、それはジョギングの人で、逆に怪しまれてしまった。

誰も居ないのを確認して再び歩き出すと、確かに気配はする。
恐くて早足になると、その倍も早く追いかけられるようで、足音や服の擦れる音に恐怖した。

マンションが見えたのをきっかけに走り出すとついてくる足音も走り出し、恐くて鳥肌をたてながら必死に逃げた。

部屋に入って耳を澄ませたが、マンションの中までは追って来なかったようだ。

「はぁー……もぅ……」

恐怖で、声も体も震えていた。

「も……やだ…っ」

あの時、あの人の言う事を聞いていたら。
あの人の望む答えを口にしていたら。
今頃、こんな思いはしなかったのか。
素直にすがれば、こんな時に守ってくれたのか。

ひくりとしゃくりあげ、追い詰められた精神が崩れだす。

「ふぅ…っ、もぅ、やだ……。やだぁ」

もう、どうすればいいのか、わからない。

まだ靴も脱がず玄関先で座り込んでぐすぐすと泣く頭に、パチン!と音が響く。
顔を上げ、息を飲んだ。

明るくなった視界の中に、あれから何度も思い出したあの人が居た。

恐怖より、何故か悲しくてまたわんわん泣いた。

「も……おねがぃ…!ゆるしてぇ…っ」

何が、とか。
どれを、とか。
そんなものはわからないけれど。
とにかくこの苦しみから解放されたかった。

「おねがい……。ごめんなさい、ごめんなさいっ。おねがいだからぁ」
「まず、靴を脱いで。こっちに来なさい」

差し出された手は、救い以外のなにものでもない。
カバンも靴も適当に放り、その手を掴んだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい。おねがい、ゆるして……」
「ミナミさん?ちょっ」

ソファーに座ると、陽は掴んだままの手を引き寄せて立っている朝霞をよろけさせた。

「おねがい、たすけて…っ。たすけて」

様子がおかしいと思った朝霞は、ぎゅっと抱き込まれるように持ってかれた手をそのままに、左手で背中を撫でてやった。

「どうしたんです」

気持ちを整理する時間をとるために少し離れていたのに、何も変わっていない。
どころか、前よりも取り乱している。

「大丈夫ですよ。俺は怒ってませんから」

ぶるぶる震え、朝霞の手に必死ですがる陽を前にすれば、苛虐心よりも同情心が湧いてくる。

「だからほら、教えてください。どうしたんですか?」

涙に濡れた顔を上げると、陽は朝霞のシャツを掴んで自らすがりついた。

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あきゅろす。
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