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シリーズ・短篇

次第に浮上する意識が、目の違和感を認める。
何故?と考えて、泣いていたのだと思い出した。
呆れるほど泣きすぎて、目が腫れてしまったのだろう。
そこまで考えてガバッと身を起こす。
焦って見た目覚ましは普段起きる時間よりだいぶ過ぎていたが、日にちが休日だったから胸を撫で下ろした。
そしてまたハッとして部屋を見回し、一人だとわかるとやっと安心してベッドに横たわった。

昨夜の出来事を思い返すと、やはりその姿が無い事に寂しさを感じた。
自分が酷い事をしてしまったと思うから、せめて謝りたかった。
それだけだ。と強がって、陽は「これが悪いんだ」と反省した。
何度言えと言われても、認めたくなくて結局最後まで言わなかった。
この強情さが、邪魔をする。

恋愛詐欺のニュースを見て、確かにショックを受けたくせに。
ショックを受ける自分にも、またショックを受けた。

まさか。
あんな異常な犯罪者の言葉にほだされたっていうのか。
裏切られたと傷付くほど、自分はあの男を信じてしまっていたというのか。
相手は普通じゃないのに。
犯罪者なのに。

男の言葉が、想いが、態度が。
すべて騙す為の演技、嘘だったかと思うと何故かショックで、心に穴が空いたような虚しさと痛みを感じた。
何故?と考えて、その『事実』に目をつむった。

男の“それ”が嘘ならば、自分のだって嘘にすればいい。
だってアイツは普通じゃなくて、平気で罪を犯してる。
理由はいくつだって見つかる。
その『事実』を覆い隠す、自分を騙す理由など。
だから“それ”に目をつむれる。

己の“気持ち”に動揺して、深く考える前に切り上げて隠したから、浅はかな言動が墓穴を掘った。
気味悪い優しさに、すっかり油断してしまっていた。

たまたま機嫌がよかっただけかもしれなかったのに、そんな事も考えず「嘘じゃないのかもしれない」と浮かれ、考え無しに口走った。
詐欺じゃない事を何故喜び、それを言ってほしかったのか。

「わからない……」

詐欺なわけないじゃないですか。って、何故そう言われると思ったのか。
馬鹿だなぁって笑われて、最初から好きだって言ってるでしょう?って、何故そう言われると思ったのか。

そう、言われると思ってしまっていた。
期待をしていたのだ。
否定される事を望んでいた。
だから男が怒ったのが恐くて、詐欺だったとにおわせるような言い方をしたら傷付いた。
そして傷付いたのが彼で、その想いが嘘じゃなかったと察して泣いた。

少し疑ってしまった事を、許してほしくて謝った。
追及されたら言ってしまうから。
そんな自分が許せなくて、やめてくれと謝り続けた。
強情に目をそらし、認めようとしない自分に、男は“入れろ”と。“許せ”と乞い続けていたのに。
とうとう許せなかった。
自分も、男も。

今では求められた答えもはっきりしているのに、どうしても認められなかった。
認めるのが恐かった。
同性愛という感情を。

自分がどうなってしまうのかと恐かったけれど、きっと何も変わらない。
だって、ただ今、何も変わってないから。

どうしてそんな強情に認められなかったのだろう。
いけないと思ったのだろう。
そのせいであの人を傷付けてしまった。
違うのに。今では、もう……。


うとうとして起きるともう昼で、しぶしぶベッドから出た。
顔を洗うために洗面所に行ったら、昨夜のあの人の優しさがよぎる。

あのドキドキは、いつもの恐怖とは違ったのに。
自分をごまかしてしまった。

あの人は呆れたかもしれない。
強情で、頭の硬い、言う事を聞かない面倒な奴だと。
考えているとまた視界が熱く滲んで、それじゃいけないと顔を洗った。

顔を拭いて何気なく映った洗面所の景色に、ふと違和感を覚える。
何だろう?と考えて、歯ブラシが無くなっているのに気付く。

「あれ?」

落としたかと思って辺りを見回しても、何処を見ても無い。
覚えのある感覚に、ゾワゾワと背筋を寒気がはしる。

「うそ……」

勝手に出入りしてるから合鍵は持っているだろうと思っていたが、無くなった櫛をどうしたのかとは恐くて聞けずにいた。
それから物が無くなったのは気づかなかったのだが、久し振りにまた物を盗まれてゾッとした。

「あれ、でも……」

あの人はあんなに怒って、言っていた。
この家の何かが盗まれましたか?と。
あれは嘘だったのか。
それとも櫛一個くらい忘れてたのか。

疑われて怒ったから、仕返しにまた盗んだんだろうか?
けれどどうにも納得がいかない。

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