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シリーズ・短篇

初めてのおつかいに出す親の様に心配してくれるお兄ちゃんは、本郷さんに挨拶すると言って当日わざわざ仕事から抜けてきた。
恥ずかしいけど、やめてよ!なんて言えないのは、お兄ちゃんが本当に僕を大事に思ってくれてるって知ってるから。

「今まで周りが過保護にしてきたからか、もともとの本人の性格なのか、本当にまだまだ甘えん坊で。ご迷惑をお掛けすると思いますが」
「いえ、こちらからお誘いしたので。逆にご迷惑でなかったかと……」

本郷さんは車から降りてお兄ちゃんと話していて、それを聞いているのが恥ずかしくて、助手席の方へまわって隠れた。


お兄ちゃんに抱えられて車の助手席に乗せられてる間に、本郷さんは車イスを折り畳んで積んでくれた。

「いっぱい遊んできな」

そう言って、お兄ちゃんはにっこりと笑った。
いつもの反応を面白がる様なものではなかったから、照れ臭かったけれど素直に答えた。

「うん。行ってきます」


わくわくして、落ち着きなくきょろきょろと窓の外を見ていた。
くすっと笑われて、さすがに窓に張りつくのは子供っぽすぎたかとおとなしくしても、好奇心は抑えきれない。

「何処に行くのか、行先は気にならないですか」
「あ……」

聞くのをすっかり忘れていた。

「何処に行くんですか?」
「紅葉狩り」

さんざん幼稚な振る舞いをしておいて今更だが、それが具体的に何をする事なのかを成実は知らなかった。
ぽかんとすると、反応が無いと思った本郷がチラッと見て気付く。

「あ、紅葉狩りっていうのは、紅葉(こうよう)を見に出掛ける事ですよ。“狩り”とは言いますけど、葉っぱが綺麗だからって取っちゃいけないんです」
「へぇ……。初めて知りました」

行けると思ってなかった、と言えばそうじゃない。
成実が行ってみたいと言えばきっと両親も、陽士だって聞いてくれただろう。
それも大変良い事だと、心から喜んで。
だけどそれが成実には申し訳ない事のように思えて、家族の優しさに甘える事が出来なかった。

「まだ見頃はもう少し先かも知れないですが、今から行くところは見頃の予想が早いですから」

高速を降りてしばらく走ると、辺りはどんどん緑が増えて、あっという間に山ばかりになってしまった。

「すごぉい……」

またぺたっと窓に張りついて、思わず見とれた。
いくつも連なる山には所々緑が残っているものの、黄色や赤に色づいてとても綺麗だった。

展望台の駐車場で降ろしてもらって、本郷さんが車イスをゆっくりと押す。

「やっぱりテレビで見るのと実際に見るのとでは全然違うんですね!」

興奮して自然と声も弾む。
振り返って本郷さんを見ると優しく微笑んでいて、見守られている安心感があった。

見下ろすと大きな川が流れていて、そこには立派な吊り橋がかかっている。

「わぁー……」

見るものが何もかも新鮮にうつって、それがとても楽しくて、嬉しい。

「あそこの吊り橋、渡ってみますか?」
「えっ」

確かに立派なつくりだから車イスでも渡れそうだが、川まで何十メートルもあるし恐い。

「渡った先に滝があるんです。見に行きません?」

見たいけど恐い。
躊躇う背中を押したのは、本郷さんの笑顔と言葉だった。

「大丈夫。離れたりしませんから」


いざ目の前にするとやっぱり怖じ気づく。

「本郷さん……」

不安げな声を出して振り返った成実の目は、本当に渡るの?と本郷に問いかけている。
甘いミルクティーの様な髪色のせいか、幼さが見える顔立ちのせいか。恐がる成実が、本郷にはCMで見た可愛らしいチワワの様に見えた。

「ゆっくりですよ?」
「はい」
「急に走ったりしないでくださいね!」
「あっはは。しませんよ」

そこに居てくれる事を確認する為に成実はずっと話し掛け続けたが、本郷は面倒がらず、むしろ楽しそうにそれに付き合った。

橋を渡るとすでに水音がして、少し行くと滝が見えた。
水はとても澄んでいて、朱塗りの欄干ぎりぎりまで近づくと霧状の水が肌に触れる。

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あきゅろす。
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