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シリーズ・短篇

大きく息を吐き出しながら机にだらんと倒れ込む。

周りに居た友人達は弟を可愛がるかの様によしよしと頭を撫でたり、どうしたのか聞き役に回った。

「ぜぇーったい悪意あるよー!」

もう嫌だと泣き言をいう彼はバイト先の上司にいじめられたんだと友人に泣きついた。
嫌味を言われたり叱られたり、冷たくされるのは四人の中でも自分一人だとわかっていた。

「蓮[レン]は俺が嫌いなんだぁ」

泣き出しかねない調子で呟いた慶兎[ケイト]を見て友人達は困った様に笑った。

「その、店長?って若いんだろ?」
「うん。店長っつうかオーナーっつうか大家っつうか」

友人はその曖昧な肩書きに一体どれだとツッコまずに居られなかった。
すると慶兎は全部だと言うものだから彼らの頭上に疑問符が飛ぶ。

そんな嫌ならやめれば、という無責任な言葉に軽く乗ってやめてしまえるならとっくにやめている。

「だって……追い出されたら他に家無いし」

そう。あそこをやめれば家に居られなくなるし、居られなくなったら他に行く場所なんて何処にも無い。
何よりこうやって高校にだって通えなくなるのだ。

住む家も仕事も、学費の面倒までみてもらっている。それももう何年も。
自分にとって既にあそこが家であり、家族の様になっている彼らと離れるのだって寂しい。
それがわかっているからこそ、蓮が何故自分にだけ冷たくするのか疑問だった。

もし要らないと言われたら――

本当は怒っていたのではない。
もし蓮に『お前なんか要らない』と放り出されてしまったら、という不安と恐怖にかられていたのだ。

「そんなのやだ」

呟いた声は小さく、友人達には届かなかった。

わかっていた。
友人達が『ならウチに来いよ』とたった数日でさえ“家”を提供しない事を。
いくら親しくして見せたって、彼らは一度だって深く知ろうとはしなかった。
高校の友人として、それ以上でも以下でもない割り切った関係なのだと。
ならば危険を冒してまで安全な“家”を得る事が賢明だと思えなかった。


放課後、クラスの女子が友人らしい他のクラスの女子とカラオケに行かないかと誘ってきた。
バイトがあるからと断ると、慶兎の好きなトコでいいからと制服を引っ張り遊びに誘われる。
申し訳なく思いながら頭を下げなんとか断ったが、彼女達は付き合い悪ーい!と頬を膨らませた。


人と関わる度、孤独感が煽られる気がした。
それでも本当は、自分が孤独の殻にこもって誰にも傷つけられない安心感を得ている事だってわかっている。
そんな卑怯で臆病で、情けない自分が嫌いだった。


まだ営業時間であるはずの店はカーテンがしまっていて、ドアには閉店の札がさげられていた。
自分勝手に権力を振りかざす独裁者の様な蓮の事だから、また気まぐれで早く閉めたんだろうと溜息をつき外階段を上がる。
普段なら中の階段を使って行くが閉まっているため仕方ない。

カツカツと足音が寂しく響き、二階のドアノブを回す。
が、ここも留守のようだ。

よりにもよって何で誰も居ないんだ。
輝[アキラ]ならバンドの練習とか遊びとか、まだわかる。
けど海里[ワタリ]さんまで居ないなんて。

自分の鍵を探すが見つからなかった。
今朝海里さんに確認された時、寝ぼけててつい返事をしたけど部屋に忘れてたのかもしれない。

二人がいつ帰ってくるかもわからないのに。
まじかよ、と天を仰いだその時すっかり今悩まされている張本人の存在を忘れていた事に気が付いた。

彼も留守にしているかもしれないなどとは全く考えずに三階のドアをノックする。

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