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シリーズ・短篇

暦が秋を迎えても長引いていた夏がやっと過ぎ、秋が深まってきた。
それでも冷たい風を避けた室内は温かな日差しが注いで、眠気を誘うには十分だった。

ふあ、とあくびをした時だった。
静寂を破るドアベルに思わずびくりと肩が跳ね、あくびで潤んだ両目を丸くした。

綺麗に着飾った、大学生くらいの女性二人組だ。
二人が目配せして笑うと、成実は気を抜いていたところを見て笑われたと思い頬を赤らめた。
が、問題が発生した事にすぐ気がついた。

「やってますか?」

営業はしているのだが、自分一人ではどうする事も出来ない。

「あの、お店はやってるんですけど……」
「よかった。座ろ」

言う前に彼女達は窓際のテーブル席に座ってしまい、今から何も出せませんと言うわけにもいかずに困った。

カウンターの中に目をやり、振り返って女性客を見る。
二人で一つのメニューを見て選んでいる。

折角働かせてもらってるのに、これじゃあただの店番に過ぎない。
情けなくたって悔しくたって、一人じゃ何も出来ないなら助けを求めるしかない。
急いで休憩室に向かい、バックから携帯を取り出して「お兄ちゃん」を選んでかける。

一回、二回……

コール音が続くばかりで、一向に出てくれる気配が無い。
時間はもうすぐ十時半。
藤巻さんはいつ戻るのか。

成実は不安でパニックになりかけながら携帯を握り締め、早く帰ってきてと祈った。
なのに次に聞こえたドアベルは救いの音には聞こえず、成実を更に追い詰めた。

コール音ばかりの携帯を切って放り投げ、お客さんを迎えねばと何の解決策も無いままに休憩室を出る。
しかしそこには今帰ってきたばかりの藤巻の姿があって、藤巻は泣きそうな成実を見て息を切らしながら目を見開いた。

外から客の姿が見えた時、藤巻は焦った。
きっと客に説明する事が出来ずに押しきられてしまったのだろうと思ったが、そんな事は「彼らしい」と微笑ましくさえある。
心配なのは、成実が一人で困っているのでは、という事なのだ。

一目で不安だったのだろうと察した藤巻は咄嗟に謝っていた。
叱られはしても謝られるとは思っていなかった成実は、驚いてぱしぱしと瞬きをした。

「注文は取りました?」
「ごめんなさい。僕、僕……まだです」

藤巻は今行きますと言いかけた成実を遮って言った。

「いえ。月原さんは、少し落ち着いて休んで下さい。びっくりしたでしょう」

成実を安心させたかったのに、その顔は悲しげに曇った。
自分の無力さを突きつけられ、今度は藤巻に役立たずだと切り捨てられたように感じたのだろうとわかっても、藤巻はフォローの言葉をかけられなかった。


コーヒーをいれる後姿に、勇気を出して声をかける。

「僕、持っていきます」

丸いトレイを手にしていた藤巻さんは、それを放して車椅子のひじ掛けにかかる大きなトレイを置いてくれた。

「熱いので気をつけて下さいね」

力強く頷いて、溢さないように慎重に車輪を回す。

運んでくるのに気付いたお客さんの視線を感じても、動揺しないよう意識した。

「お待たせしました。コーヒーです」

観察する二つの視線が居心地が悪い。
二人の女性は笑いを堪える様にしてまた顔を見合わせた。

「バイトですか?」

声をかけられた事に驚いて、そして表情や声色の好意的な印象に動揺した。
奇異な目で見られてるんじゃないかと勝手に思ってしまっていた。
こくりと首を振ると、彼女達はまた顔を見合わせて微笑んだ。
そして。

「いくつですか?」
「可愛い〜」
「ちょっと。いきなり可愛いって……失礼ですよねぇ」

一気に頬が熱くなった。
どう反応していいかわからず、とりあえず質問に答える。

「あ……。十九……」

大きなトレイをぎゅうっと握り、びくびくしながら小さく答えると、訳もわからずそそくさとカウンター内に帰ってきてしまった。

「行ってきました」

心臓がどくどく鳴るのを感じながら、藤巻さんにトレイを返す。
すると藤巻さんは腰を屈めて顔を寄せると、声を潜め含み笑いで言った。

「月原さん目当てだったりして」

まさか。とんでもない。
自分なんかを目当てに来るはずが無いのに。
そんなのは藤巻さんの冗談に決まってるけれど、何て答えたらいいかわからなくて、ただふるふると首を振った。

「また来ます」と言って帰っていったお客さんを見送った後で、お兄ちゃんの携帯にかけた事をふと思い出した。
すっかり忘れてたから、折り返し連絡があったら悪いなと思って見てみたら、何件もの着信があった。

「わぁっ」
「ん?」
「お兄ちゃんにかけたの忘れてて……すごい着信が……」
「大変だ。きっと今頃発狂しそうなくらい心配してますよ」

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あきゅろす。
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