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シリーズ・短篇

朝食にトーストが出てきたのが意外で驚いたら、このくらいはやるぞと言ってジャムを渡された。

「須崎さん、いちごジャムのイメージ無いですね」
「俺からすりゃお前の方がイメージ無いけどな、クールガイ」

最後の不可解な単語に引っ掛かって聞き返すと、へっ、と鼻で笑った。

「付き合い浅いとそういう印象持たれんだよ、お前は。でもお前アレらしいな。会社でツンデレキャラが定着してきたそうじゃねぇか」
「高見さんそんな事まで言ったんですか」

後輩発信で浸透してしまった可愛いなんてレッテルが鬱陶しいったらないのに、反発したらしたで反応を面白がられるオチが待っている。
しかしそれを前向きに打ち解けていると解すれば、いい傾向だと片頬で笑ってみせるその通りなのだろう。
そこまで考えてくれている事に、温かく満たされる思いがした。

トーストをかじると鼻にふわりと甘く香る赤色。

「今日お前どうする」

上目で見返すと、何が?という無言の問いが伝わった様で、今日は予定があるのか。無ければここに居てもいい。と照れの入った口調。
二人の間で会話と言えば揶揄してふざけたりという印象ばかり残っていて、こうした優しい気遣いなんて慣れなくてくすぐったい。
伝染した照れ臭さは変に意識させてぎこちない空気を作る。

「折角の休みなんだし、須崎さんもゆっくりして下さい。何か、色々すいませんでした」

こうして泣きついて甘えられる存在は貴重で、その時間は心を大きく包んで休息を与えてくれる。
今回はそれこそ心身共に。

「俺はどうせ暇だから構わねぇけどよ。帰んのか?」

一段トーンが低くなった最後の言葉は、暗に帰っても平気なのかと聞かれたのだと感じ取れた。
解ってしまっただけに。
言葉に詰まってしまっただけに、誤魔化し難い。
作り笑いさえ出来ない自分の余裕の無さを突き付けられ、イライラと頭を掻きむしりたくなった。
こんな事に負けたくはない。まさか弱いだなんて認めたくなくて。
けれど強引に証拠を並べ立てられて頷かざるを得ない状況にまで追い込まれている。
敗北は屈伏で、服従だ。
あの男の思う通りになどなりたくはない。
それなのにまんまと用意された道筋を辿るしか出来ない自分が酷く悔しく、苛立つ。

判断出来ず答えに困るのを見て須崎さんは、ただ「居ればいい」と苦笑した。


甘える事にしたはいいが、問題はその時間の使い方だ。
言わば匿われている立場にいる為のんきに外出とはいかず、家の中に男二人、夜まで一体何をして過ごせばいいのか。

重量感のある本棚を埋める本は意外と几帳面に並んでいて、どんな本を読んでいるのか眺めても勤勉さが窺えて意外性を感じた。
フローリングにだらしなくぺたんと座り込んでいる自分にふと気が付いて、疲労感と安心感のどちらに起因するものかぼんやり考える。
と、背後の気配が耳元で笑った。

「面白そうなの見付かったか?」

声の主がわかっていても、自然と恐怖心が顔を出す。

「資格とか、仕事関係ばっかりですね。あ……これ、見ていいですか?」

返事を聞く前にもう引っ張り出す高校の卒業アルバム。
須崎さんは、まぁいいけど……と歯切れが悪い。

「須崎さん何組でした?若い高見さんもどっかに居るんですよねー」
「五組。で、アイツは一組」

高校生の高見さんは、その性格が窺える様なやわらかな微笑でそこに写っていた。
今と変わらない印象なのは須崎さんも同じで、自然と周りに人が集まってくる様な好かれるタイプだったのだろうかと思わせる。

高見さんは女の子からも人気がありそうだが、須崎さんはもっぱら男からの人気が高そうだ。
そんな勝手なイメージを言うと、大体合ってると言いながら小突かれた。

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