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シリーズ・短篇

駅前で待ち合わせて会うと、その足でカラオケに連れていかれた。
須崎さんは不躾に核心に触れてくる様な事はせず、爽やかに笑って自らの近況を話し始めた。
その内にこちらも自然と肩の力が抜けて、年の違いは二つだけれども、自分より遥かに大人なんだなと思わされた。

大人の余裕と言うべきか。
高見さんもだが、こうして気を配り、何かあったら受け止めてくれるだけの器が安心感を得る。
いざという時に頼る事が出来る、貴重な存在だ。


「お前に大事な奴くらい居ないのかって高見が心配してたぞ?……お前、神経質で潔癖なとこあるからなー……、完ぺき主義っつーか。それじゃあ女も近寄れねぇわな」

ハードル高ェんだよ、とからから笑うそれに何ら悪気が無いというのが質が悪い。

「二人だってまだ独身じゃないですか。順番で言ったら俺より先に二人でしょ!そっちだって彼女居ないくせに」
「バーッカ!俺は本気になりゃ幾らでも出来んだよ。だけどお前は無理そうだから心配してんだろーが!」
「別に心配しなくたっていいですから。今は彼女とか要りませんしっ」
「仕方ねぇ。俺んとこに嫁ぐしかねぇな」

ニヤリとふざけた笑みを浮かべた顔に、若干の憎たらしさと同時に面白い人だなー、という心地よさを感じる。

「須崎さんとこに行くぐらいだったら高見さんのとこに嫁ぎますよ。て言うか何で俺が嫁なんですか」
「クッソ!高見め!」

笑わせてくれるこの人の存在がありがたい。
そして心からしみじみと「好きだなぁ」と思う。

「同い年でも絶対高見さんの方が大人ですよね。落ち着いてて……俺、公私共に尊敬出来ますよ。嫁げとか言わないですし」

笑いながら憎まれ口を利くと、肩口を拳で軽く小突かれた。

「俺の野性的な魅力をわかんねぇんだなー、お前は。アイツああ見えて嫉妬深いぞー!?俺にしとけ!」
「じゃあ須崎さんは嫉妬しないんですか?」
「んー……する!けど、アイツほどじゃねぇ!」

高見さんと須崎さんはタイプが違って見えて、根は二人共優しくて面倒見がいい。
表現の仕方が違うだけで、二人共人の心の動きを細かく察知して動ける人達だ。
だからこそ二人を信頼してるし、尊敬もする。
そしてそんな二人を頼れる立場に居る事が嬉しい。

骨張った手が頭を乱暴に撫で、決して気まずくはない沈黙に気付く。

「お前、たまに子供みたいに笑うなぁ」

須崎さんは時々そういう表現をするが、それがどういう意味なのか未だにわからない。
意味を探ろうとじっと見返すと、須崎さんはいつもわかんなくていい、と誤魔化す。

「いつも思うんですけど、子供みたいにってどういう意味なんですか?」
「幸せそうに笑うって事」
「幸せそう……?」

氷の浮かんだ炭酸飲料に口をつける横顔はふざけているようには見えない。

「お前が無邪気に笑うのが俺達は好きなんだ。俺達の前でも笑わなくなったら、他に何処で笑うんだ。彼女も出来ないくせに」

いいテンションでいい事を言っていたのに最後で落とした。
それが須崎さんらしくて笑える。

「……須崎さん」

空気を察した須崎さんは、短く返事をするだけでもうふざけようとはしない。

「あの……笑わないで、下さい」
「いいよ」

笑う訳がないとわかっていたけれど、ただ、自分にとってこれは深刻なのだと伝えたかった。

「変な男に付きまとわれてて……会社での事も知られてるし、だから高見さんにも相談しずらくて」

相談したのが男に知れれば、約束が違うと責められるだろう。

「須崎さんならきっとまだ知られてないですよね!?もしも相談したのがバレたら…!」

もう救いの手は取れない。

「須崎さんしか居ないんです…っ」

声が震えた。

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あきゅろす。
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