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シリーズ・短篇

包まれる温もりも恐怖でしかなかった。
男の言葉を信じるとすれば、男にとっての最大限の優しさがこのおかしな関係を強いるという事になる。

ほんの少しでよかったのに、楽にもしてくれない。


貴重な安眠を阻害したのは枕元の携帯のバイブだった。
俺が二度寝をした後男は帰ったのか、姿は無かった。
二十四時間すべてを一人の男の為に使っているとはさすがに思っていない。
こちらが知らないだけで、男には男の生活がある。
それだけに一方的な干渉がより苦痛に思える。

「はぁい、もしもしっ」

半分睡魔に負け目を瞑ったまま、うっかりディスプレイを確認せずに出てしまった。
すると聞き覚えのある声が俺の寝ぼけ声を笑った。

「休みとはいえもう昼過ぎだぞ?昨夜も遅かったのか?」
「んゃ……まぁ……ふぅん……」

声と記憶とが合致しないまま返事ともつかぬ曖昧な声を漏らせば、ちゃんと起きてるのかと再び笑う。
会社の中にあの男のスパイが居るんじゃないかって半分本気で思うほど、会社でだって気が抜けない事は確かだ。
けれどそれでも、家でいつ男がやって来るかびくびくしながら過ごすよりは大分マシで、結局長く会社に残ってしまう生活が続いている。
それを声は気にかけて、わざわざ休日に電話を寄越したのだ。

「高見が、お前のこと心配だって漏らしてたぞ?」

会社の先輩の名。という事は、須崎さんだ。
大学の二つ上の先輩で、高見さんとは高校の同級生でもある須崎さんは当時からこうして気にかけ、可愛がってくれていた。
高見さんから話を聞き、心配して電話してくれる優しさが今は深く染みる。

「最近元気ないみたいだな。顔色も悪いっていうし……あんまり無理すんなよ?」

黙り込んでしまった俺に須崎さんは穏やかな声色で語りかけた。
それがまた視界を熱く歪ませるから止めてほしい。

「久し振りに会わないか?」

目の前に用意された救い。

「何か悩んでるんなら聞く。嫌なら話さなくていいから、な?外に出るだけでも気分転換ぐらいにはなるだろ?」
「……ん」
「高見も、俺もだけど……お前の事少しは知ってるつもりだし。だからもし一人だって思ってんなら、そうじゃねぇぞ?」
「……っ」

涙を堪え震えた息が、電話越しに悟られたと思う。

「高見がさ、毎日顔合わせる会社の人間だから話し難いんじゃないかって言って、それで頼んできた」
「高見さんが……」

家族と疎遠だという事も、その訳も知っている二人は、他人からすればそれは少しお節介じゃないかという事であっても一つも気にせずしてくれる。
それは家族という穴を埋めようとしてくれるかの様で、血の繋がりよりも余程彼らの方が家族らしい愛情を感じられた。

「頼まれたからお前に電話したんじゃねぇ。わかるな?」
「はい…っ」
「俺がお前の力になってやれんならなってやりたいからだし、今は俺じゃなきゃダメだって俺は思ってる。……間違ってるか?」

口を開けば嗚咽が漏れそうで、だからって首を振ってもそれは伝わる訳がない事もわかっている。

「間違ってませんっ」

ちゃんと信じさせてくれる人だから。
辛いとも、苦しいとも、自分から言い出さない事を知っているから。
だから目の前のギリギリまで手を伸ばし、必要ならすぐその手を取れるようにしてくれる。

「須崎さん」
「ああ」
「助けて下さい…!」

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