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シリーズ・短篇

手を引かれてエリオの家に戻ると、使う食材を残して棚や冷蔵庫にしまった。
エリオと過ごす時間はいつも静かで、穏やかだ。
長い沈黙がおとずれても気まずいとは感じないし、ちっとも居心地悪くなんてない。
二人きりになると特にエリオの持つ硬質な空気がやわらかくなり、より安心感に満ちたものになる。
食後にはソファーでまったりと過ぎる時間を甘受する。
そんな中、ゆるやかに低い声が沈黙を破る。

「俺も、女相手にできるのかと考えたことはあった。だが、試してみようかなんてことは一度も考えもしなかった。そんなのは無理だとわかってたからだ」

エリオが重要なことを話し始めたと察し、リコは真剣に耳を傾けた。

「こちらに関心がなくとも、好意を持たれることはあった。中には、男にしか欲情しないとはっきり告げても諦めてくれない者も居た。される側ではなくする側ならヤれるはずだと言われた。突っ込む行為は同じなのに男じゃなきゃ無理だという理屈がわからないとゴリ押しされて……」

数拍の沈黙は躊躇いで、それは感情をあらわにしないエリオの動揺を物語るものだった。

「その女は俺とするために、男を一人用意した。男に俺のモノを反応させて、準備ができたら女に突っ込ませるんだと。男はその女に気があった。女とヤりたくて引き受けたんだ。女を相手にしてるのを見てよくわかった。そんな、女への下心で男のモノを握るくらい我慢してやろうってヤツに嫌々擦られても反応しなかった」

リコは下ネタには赤面して何も言えなくなってしまう質だったが、これは下ネタだなんて軽々しく言い切っていいものではなかった。
むしろこの恐ろしい経験談を、青くなって聞いていた。

「焦れた女は、男でも女でも口は同じ形だと言って自分がしゃぶってやるとぬかした。男がどうしてもそれはできないと言ったのと、女がそれをしたがったからだ。俺は何度も女では無理だと言い続けた。だが女は、それなら自分の体で試して証明してみろ。そうじゃないと信じないと言ってしつこく食い下がった。逃げ切れなかったのは、その時の俺がまだ十四のガキだったからだ」

淡々とした語り口調とは裏腹に、リコの中には様々な感情が渦巻いて、薄い体を震わせていた。

「女にしゃぶられるなら自分の手の方がいい。そうして反応させたモノに、女が喜んで跨がった。コレは自慰の道具なんだと思ってやり過ごそうとしたが、女がイッても、結局俺は女ではイケなかった。これはレイプだと思っても、誰に、何て言って訴えればいい。少し考えて、やめた。泣き寝入りだが仕方ない。非力な者は、うまく言葉を使って関係に持ち込む」

『イリス』でのエリオの言葉を思い出す。

『非力だから言葉で丸め込んでヤろうとするのも立派なレイプだ』

あれは、経験から来る言葉だったのだ。
そしてバーでの出来事が、彼が、エリオの傷を刺激してしまったのだろう。

「お前は無垢で、純粋な子だ。加えて非力で、言葉でも力でも強引に持ち込まれたら終わりだ。その上受け入れる側なら、傷付くのは心だけで済まない。だから俺はいつでも気が気でない。お前が泣く破目にならないか、初めからずっと心配だった」

震える手をのばし、たくましい胸にそっともたれると、がっしりとした腕で慎重に抱き寄せ、優しいぬくもりで包んでくれた。
エリオが一夜だけの関係を求めないのも、決して誘いを受け入れないのも、その傷があったからなのだと思うと泣けてくる。
そしてそれ故に、エリオはリコを気にかけてくれたのだ。

「リコ。お前が成人しても、お前が俺を意識するまで俺から誘ったりしないと決めていた。お前を愛しく思う気持ちに迷いがあったからではない。むしろ真剣だったからだ」
「うん。……うん」

大切にされていたのだと、気持ちを自覚してから知った。
触れ合いを重ねる中でもそれは感じられる。
とても大切に、愛されていると。

「リコ。今日“シて”みるか?」

何故改めて致すことに許可を?とぽかんとすると、片足をさっとすくわれ抱えあげられた。
そしてするりと尻を撫でた。

「挿入(インサート)してみるか?って。まだ、恐いか?」

恐さはない。ただ、羞恥で言葉にならないだけだ。

「やめとく?いいよ、無理しなくて」

ほのかに笑みを含んだ声で、甘く囁く。

「エリオが、もうできそうって思うなら…………。その、僕は……」
「いいの?」
「…………したい」

エリオにとって、することはとても重要な意味を持つから、それを大切に受け止めたいと思う。
彼が大切に想ってくれるように。

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