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シリーズ・短篇

感情を映さない美しい造形は、いっそ畏怖を人に与える。
マルセロに絡みつく彼だってキレイな青年なのに、エリオの前では人並みと思えるほど。
彼はエリオに気圧されながらも、一人で言い訳を始めた。

「だって彼、この子とベタベタしてたもん。ボク見てたんだから。付き合ってるって思っちゃうぐらいに仲良くしてた。絶対ボクの方がキレイだし、夜も楽しめるっていうのにさ。どうしてこの子を選ぶのかボクわからないよ。あなたが庇護する子供なんでしょ?利用されちゃわないようにちゃんと管理しておいてもらわないと…っ」

彼が言葉に詰まったのは、エリオが眉をひそめたからだった。
たったその些細な動作ひとつで黙らせてしまう。

「お前の姿形が綺麗だろうが、テクニックが勝ってようが問題にならない。中身が低俗で醜悪なら、見る価値もない」

辛辣なことを言うと思ったが、それがエリオの本音なのだろう。
それに言われた方も負けじとエリオを睨んで言い返している。

「ボクの心が醜いってコト!?それってキレイな人間に対する偏見じゃない?平凡な子なら心がキレイだっていうの?それ以外何のとりえもないクセに!」
「おいおい。いい加減にしろよ」

マルセロがいさめるが、自分に自信があるだけにプライドを傷つけられたのが許せないらしく、引き下がる素振りはない。

「アンタの理屈なら、アンタだって心が汚いんでしょ。聖域って呼ばれるくらいのいい男だもんね」
「俺がどうってところは否定しない。だが、俺は綺麗な者は総じて中身が醜いとは言っていない。お前は綺麗だが、それだけの価値がないと言ったんだ」

顔を真っ赤にして発散する憤怒からかばうように、エリオのたくましい腕がリコの華奢な腰をとらえ、抱き寄せる。

「いくらその眉目に自信があっても、そいつがお前を相手にする気がないと言ったんならその判断を受け入れろ。非力だから言葉で丸め込んでヤろうとするのも立派なレイプだと俺は思うが」
「レイプ……」

彼は過激な表現にショックを受けたようで、怒りはすっかり何処かへ消えてしまった。

「それ以上は俺が言うべきではない」

だが……と、エリオはマルセロを見て続けた。

「リコを面倒に巻き込むな」
「わかった、わかったよ」

マルセロは首を振りながら、長い溜息をついた。
そして少し屈んで彼の耳に口を寄せると、何かを囁いた。
彼は驚いて口を開いたが、マルセロが人差し指を立ててしーっと口止めしたので何も漏らさなかった。

「リコ、遅れてすまなかった。帰ろう」
「う、うん。マルセロ、またね」

笑ったマルセロの顔は、いつものいたずらっ子みたいな明るさをしていた。
マルセロは気になるならエリオから聞けと言ったが、気になるぐらいの興味で彼が隠していたことを人から聞いていいかわからなくて、エリオに聞けなかった。

食材を買った帰りの夜道で、ぼそりとリコの名前を呼んだ。
リコは返事をしなかったが、かわりに繋いだ手をぎゅっと握った。

「下心のあるヤツは、俺がお前に近付かせない」

こくりと頷いて、ちらりと見上げる。
エリオは視線を動かないまま、静かに語った。

「あいつ……マルセロには、お前をどうにかしようって気がない。そんな気は起こらない」
「うん。僕、マルセロをお兄ちゃんみたいって思ってる。多分マルセロも、僕をちっちゃい子供みたいに思ってると思うよ」

エリオが足を止めたからリコも黙って足を止め、じっとその動かない顔を見つめる。

「リコ。俺じゃなくてもいい。例えば今日あいつに絡んでた美人とか、もっと他の可愛いヤツ。女でもいい。とにかく、お前は誰かを抱きたいと思うか?」

突然何を言い出したのか。その意図がわからない。
ぱちぱちと瞬きをして、ふるふると首を振って否定する。

「できるかどうか考えたことはあるけど、そうしたいと思ったことは一回もない」
「あいつもつまりそういうことだ」
「…………えっ!?そうなの!?」

マルセロがどっちかなんて考えたことがなかったから、照れて頬が熱くなる。
そんな反応を見て、エリオはふっとかすかに笑みを滲ませた。

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