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シリーズ・短篇

夜遊びの一言で片付けるには有意義すぎる。

バー『イリス』の存在を知った時、お酒が飲める年になったら絶対に行ってみようと思った。
そこがゲイの溜まり場だというのがゲイの間では有名だと知ったからだ。
一夜の相手を見つける人々が集まる場所というのもあるらしいが、目的が違うのでそういったところには興味がなかった。
『イリス』に行きたくなったのは、基本的にゲイがひそかに集まって楽しく飲む場所だと聞いたから。
そこに行けば“仲間”が居ると思った。
自分と同じような人が居ることを確認して安心したかった。
相手を見つけたいとか、悩みを打ち明けたいなんて考えていなかった。
ゲイだということで差別しない世界も存在するのだと知って、安心し、勇気をもらった。
そんな世界にただ自分も触れて、飛び込んでみたかった。

成人すれば。
それがひとつの希望になった。
けれどそれが来る前に、僕はその世界に救いを求めた。
そうして高校は狭い世界にすぎないのだと知ることができた。

「あの頃はかわいかったよなぁ。小動物みたいに怯えてて。なぁ、リコ」

楽しそうに笑いながら、懐かしみ、親しみをこめた揶揄を口にしたマルセロは、リコが初めてこのバーに訪れた時から知っている常連の一人だ。
彼が連れている友人とは初対面だったので軽く紹介されたのだが、“あの頃は”と言う割にマルセロはいまだにリコを子供だと思っている節がある。
未知の大人の世界に緊張して、場違いだと嘲笑され追い出されやしないかとびくびくしていた未成年の自分を思い出させられて、ボッと羞恥で赤面する。

「やめてよ。しょうがないじゃん。僕はどうせ弱虫のイジメられっ子だよ」

ロックファッションに派手な赤い髪が目立つけれど、それを自分のものにするだけの華やかさをマルセロは持っていた。
キリッとした目元に、大きな口。
彼を思い浮かべる時、そして実際にこうして顔を合わせる時、男らしい印象のととのった顔はいたずらっ子の少年の様なキラキラした笑みがつくられていた。
彼の仲間にも同じ様なファッションの人達は多く、同じ学校に居たらリコとは縁の無いタイプだっただろう。
だからマルセロには気が弱くてオドオドしてるイジメられっ子タイプのリコは面白くて、ついちょっかいを出して遊びたくなるのだ。
明るく真っ直ぐで、からっとした気性のマルセロだから、リコは最初から不快にもイジメだとも感じなかった。

「まぁまぁ、ヘソを曲げるなって。そんなんだからまだまだおこちゃまだって言われるんだぞ」

からからと笑うマルセロは後輩との楽しい戯れのつもりで気軽に言う。
翻弄されつつも、親しく接してくれるのは嬉しい。
偏見を持たず、気安く友達みたいに。

「じゃあ、いーよ。今日はお酒飲んでやる!」
「よせよせ。どうせ具合悪くなるだけだろ?体質的に受け付けないならムリすんな。酒が飲めたって大人になるわけでもないんだ」

たまにこうしてフォローしてくれるから、お兄ちゃんみたいに思えて慕ってしまう。
リコは諦めてコーラを飲んだ。
リコはこのバーに来て、人と接する楽しさを知った。
だが「夜遊びばかり」と両親は怒り、呆れ、見損ない、落胆した。
年の離れた姉は「ガキが夜遊びを覚えてはしゃいでる」とバカにして、嘲笑い、嫌悪した。
かわいい末っ子で居られたのは小学生までだ。
成長したら当たり前に男らしくなると疑わなかった家族が心配しはじめ、それが不安に変わった頃、遂に抱えていた秘密がバレた。
高校でリコが「男好きのオカマヤロー」だとからかわれ、笑われて、バカにされて、孤立していると家族の耳に入ったのがまずかった。
隠しているつもりでも好きな人が男だというのが悟られ、はぐらかして逃げることができなかったぐらいだから、リコをよく知る家族の目をごまかせるわけがなかった。

泣いて、決意して。
いざ店の前まで来たら怖じ気づいて、迷って。
マルセロの言う通り、怯えながら踏み込んだ。

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